むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～｜リアクション

むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～

　　【闇夜を戦う者達】

　「広い酒場と宿屋が借りられて良かったね。狭い場所よりも心に余裕が生まれるわ」
　その巨躯を持つ尾鎌蛇那伊が辺りを見渡す。
　情報を纏める箇所から少し離れる場所。
　夜に戦う全員が座れるスペースは流石に無いが、それでも、外で話を纏めるよりは遥かに落ち着いた空気で進行出来そうだ。

　「……皆さんは、何が出来ますか？」
　集まった面子に直球の質問を投げたのは常闇月だった。
　歯に衣を着せぬ言い方は、短時間での味方の戦力把握を最優先した結果でもある。
　あちこちから、ろっこんという言葉が飛び交い、随所で戦えるという声も上がる。
　戦闘に特化したろっこんを所持している者が多く、確かに、これだけ異能力者がいれば、対象を殺すのは容易いだろうと思われた。
　だが、話題に挙がったのは『殺すのではなく生け捕りにしたい』という声だった。
　しかし、この数だ。上手く連携が取れるのかどうか……

　そんな中、志波高久の声が聞こえてきた。
　「話し合いの最中に済まないな。実際に戦闘に入れば笛を使う余裕が無さそうな戦闘組に、笛を譲渡してもらえないか考えていてな。
　思いの他、情報と装備のやり取りに笛が必要となりそうだ。……なに、最悪、酒場の主人と交渉して、ありったけの笛を譲渡してもらうだけだが」
　穏やかでない内容を、恥ずかしそうとも苦笑ともつかない表情で、少し申し訳無さそうに話に割り込んだ高久が告げる。
　「昼間のうちに松明と鳴り子が用意出来れば、騎士の居場所は判断できるべ。
　夜組に笛は要らないべ。もし僅かでも理性が残っていて伝書鳩を殺されたり、それを見に普通の人が外に出たら、それこそアウトだっちゃ」
　鈴野海斗の言葉に、納得した様子で夜のみに動く面子が笛を差し出す。
　昼に何かしらの行動を取ろうと、思うところのある面子は少し待って欲しいと声を掛けた。
　しかし、それだけでも、笛の数としては十分な数が集まった。
　これならば、多数の情報の入れ違いがあったとしても、やりとりとしては十分だろう。

　「ん？　志波殿。こんなものを見つけたでござるが、多少は情報集積の役に立つのではないか？」
　その合間に、夏神零が恐らく事件が発生してからであろう、ごく最近に使われなくなったと思われるコルクボードを発見した。
　高久は小さな歓声を上げ、夏神に感謝とともにそれを受け取る。
　「よし皆、外から得た情報は、共有情報としてこのコルクボードに貼っていく事にしよう。
　常に……特に夕方は見やすいように完全に情報を整理しておくから、必ず見ておいてくれ！」
　各自がそれに頷いて、その宿の場所を覚え、覚え切れない者は地図をもらいその場は解散となった。

　コルクボードには、早速酒場内で軽く聞いた場所と、それぞれの活動場所が貼り付けられた。

　活動は【城】【森】【街】と──そして、【夜】

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