授業風景～番外編・自習の場合～｜リアクション

授業風景～番外編・自習の場合～

「それでは、本来の意図と外れた文章解釈をするという遊びをします」
　蓮の講義が始まりました。
　ののこだけでなく、何人かが興味を示して聞いています。
「えーと、どういうことなの？」
　ののこが目をぱちくりさせます。
「幸い、日本語は一人称と二人称の区別が曖昧です。『自分、自分、どう思ってるん』はどういう意味になるでしょうか」
「えーっと……？」
「『あなたは私をどう思っていますか』です」
「同じ『自分』なのに意味が変わっちゃうんだね」
「そうです。子供に『僕、どうしたの』と話しかけたときはどうでしょうか。この『僕』は二人称です」
「ほえ～」
「一人称の手前もてめえと発音すると二人称になります。
『お父さんはこう思うな』『先生ならこうするよ』など立場や役職も一人称になります」
「そ、そうだねえ」
　月詠も後ろの席から蓮のほうを見つめ、熱心に手を動かしていました。
　ただ、メモを取っているのではなくスケッチブックにカリカリとラフを描いているのですが。
　目立つ行動をしている者や、うたたね等をこっそりスケッチしておこうというのです。
　すでに現代文は次の範囲を確認し要点だけ纏めておいてあります。
（今回が自習だとしても飛ばす事はないだろうし解らないなら後で聞けばいい）
　という考えなのでした。　
　
　ボーイッシュな少女桜庭円は、久保田先生がが示したところを読んでいました。
（現代文って意図を読むのが大事だと思うんだよねぇ、作者の意図というか、書きたい事って言うかそんな感じ。要するにテーマ！）
　一方で、ののこの様子もうかがっています。
（ののこちゃんテスト勉強進んでるのかな？　蓮くん頑張ってるようだけど、最後まで集中力もつかな？）
「言葉は生き物です。吉田兼好も徒然草で言葉の乱れを嘆いていたように、時代によって意味が変わります。
　現代では『全然』は否定に使いますが、明治では『完全に、全面的に』の意味で肯定に使われていました。
　罵る際に使う『貴様』は元々あなた様という意味でした。
『すごい』は凄惨の意味でした。『鬼かわいい』の鬼も強調で使われていますね」
「う、うん……」
　蓮は奮闘していましたが、ののこの相槌はだんだん気の抜けたものになり、まぶたは重くなっていくのでした……
「ねえののこちゃん、ちょっと休憩しない？　お菓子あるよ」
　円の助け舟に、ののこの目が輝きました。
「お菓子！　うん、休憩しよう～」
「テスト近いし、食べながらテスト範囲の復習一緒にしない？」
　と円は、チョコレート菓子を鞄から取りだしました。
「ありがとう、いっただきまーす」
　ののこはニコニコとお菓子を食べ始めました。
　そんなののこを離れた席から見ている者がありました。
　円の友人である御剣刀です。
　刀はののこには近づかないようにしようと決めていました。
（あいつのフツウが壊れると危険だとテオが言っている。
　そのフツウを守る時、あいつと赤の他人である事が役に立つ時があるかもしれないからな）
　

　そのころ真央は、猫鳴館で、全てネコアップリケで補修されている学校ジャージに着替えを済ませ。
　猫をチェックしながら落神神社を抜け、寝子島神社へ向かっていたのです。
　陸上部中距離パート、毎日朝練と称して猫道を走っている真央の速さは伊達ではありませんでした。

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