授業風景～番外編・自習の場合～｜リアクション

授業風景～番外編・自習の場合～

　久保田美和先生が去り、ざわめく教室で、キャスケット帽をかぶった芸術科の旅鴉月詠が黙ってスッと立ち上がりました。
　まっすぐ黒板へ向かい、色つきチョークを手に取ります。
　数色のチョークでカリカリと描き出されたのは『お静かに』という言葉と、どこかで見たようなおじさんのイラスト。
「クマ先生なのだ！　さすが月詠ちゃん、簡単に描いてあるのにすぐわかるのだ～」
　そのまま席に戻る月詠に、体育科の後木真央が尊敬の声を上げました。
　一部の生徒は知っているでしょうが、隣の教室では、クマ先生こと生活指導の吉田熊吉先生が授業中なのです。
「さすがですね」
　感心しながら、今度は坊主頭の森蓮が立ち上がり教壇に向かいました。
「皆さんこんにちは。１－５の森と言います。自習中に失礼します。
　テスト前の貴重な授業時間ですが、皆さんの中には自習が苦手な方もいらっしゃるかもしれません。
　そこで僭越ですが、私が久保田先生の代わりに講義をさせていただきたいと思います。
　勉強に苦手意識のある方も楽しみながら学べるよう遊びにします。野々さん、参加していただけませんか」
「ほえー？　蓮くんが先生になるの？　面白そう」
　勉強が苦手ならっかみ、野々ののこが楽しんで学べるようという、蓮の心遣いでした。
　どうやらののこは興味を示したようです。

　その間に真央が、クールな優等生という雰囲気の八神修に向かって話しかけます。
「修ちゃんは何を自習するのだ？　真央ちゃんはおネコさまと時間の大切さを勉強しに行ってくるのだ♪」
「ああ、困ったな。もう全て終えているので……って後木、抜け出すつもりか？」
「美和ちゃんセンセーは良く分かっているのだ！　自ら学ぶ、これぞ崇高な使命？　なのだ！　というわけで真央ちゃんは早速おネコさまに学びに行くのだ♪」
　愛用の赤猫リュックを背負い抜け出す隙を伺う真央ですが。
「真央さん、どちらへ行かれるのですか？」
　教壇に立っている蓮からは丸見えです。
「蓮ちゃん違うのだ、真央ちゃんは自習しに行くのだ他者との交流と時間の使い方の勉強なのだ」
　同じ猫鳴館に済む蓮に、真央は悪びれずに持論を語ります。
「そうですか。自習は自分で考えて学ぶものですから、それも正しいかもしれませんね」
「それじゃ行ってくるのだ～。月詠ちゃんはスケッチしに出かけないのだ？　何か意外なのだ～」
　月詠はスケッチブックを取り出していました。
「外に行かなくてもいくらでも描くものはあるからな」
　そう言ってコミカルなタッチで素描を始めます。
　描くのは、先程慌てて出て行った久保田先生。
　自習と書いて説明したあとあわあわと出ていこうとするところを、デフォルメで、メガネがずれて大汗をかいているところも加えています。
（さて何が起きたのだろう。合コンかなんかの請求でもきて呼び出しでもくらったか）　
　この絵は後で一年四組の後ろの方にでも貼っておこう、と思う月詠です。

　真央が廊下に出ると、隣の教室からクマ先生の声が響いていました。
（どの先生にも見つからず学校を抜けだしまた戻る……これ以上にスリリングな自習はあんまりないのだ♪）
　ここは三階、クマ先生は最初の関門です。
　抜き足、差し足、忍び足……
　無事関門を突破しました。
　速やかに階段を降りた真央は、二階で校長先生、一階で教頭先生と遭遇しそうになりましたが辛くも身を隠し。
「危なかったのだ……はっ！？」
　校庭で水を撒いている用務員さんからも逃れて、ようやく学校脱出に成功したのでした。
　

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