授業風景～番外編・自習の場合～｜リアクション

授業風景～番外編・自習の場合～

「うーん？　みっちゃん先生、慌ててどうしたんだろう？」
　アホ毛が印象的な少年、千鳥雅人は急な自習の理由がちょっと気になりました。
　でもテスト前の折角の自習時間、有効活用しないと！　と思いなおします。
　まずは先生が言っていた今日の学習範囲に付箋を貼ります……が。
（これは家に帰ってから勉強しよっと。それよりも英語だよ、英語！　いんぐりっしゅ！）
　中間テストで一度追試を受けてしまっています。
　期末こそは頑張らないと！　と握りこぶしに力が入ります。
（ふふふ、教室移動の時に、鞄ごと持ってきて正解だったんだよー）
　広げた英語の教科書には、要所に蛍光ペンでラインが引いてあったり付箋が貼ってあったり、今まで勉強してきた跡がいっぱいです。
「よし、今日も頑張るぞー！」
　と、意気込んだのですが……
「ううん、やっぱりわからない……！
　こ、これは非常にピンチなんだよー……誰か、英語が得意な人はいないかなぁ？」
　雅人は教室を歩き回り、英語を教えてくれる人を探すことにしました。

「あ、八神くんだ」
　中間テストの一夜漬け勉強会で、特別講師を務めてくれた修なら教えてくれそうです。
（何やら難しそうな本を読んでいるけど……？）
　気を使いながら雅人は修に声をかけました。
「あ、あの、勉強中申し訳ないけど、ちょっといいかな？　……何読んでるの？」
「『貞観政要』だ」
「それって、古文の勉強なの？」
　聞いたこともないタイトルに、つい質問してしまう雅人です。
「これも文学と言えない事もない。帝王学の参考書にも使われるが」
「へ、へえ……じゃあ、今日の勉強範囲は終わってるんだよね」
「そうだな。中国の唐の時代に太宗が部下と行った問答が書かれているのだが、なかなか面白い。
　たとえば『貞観十年、太宗、侍臣に言いて曰く、帝王の業、草創と守文といずれが難き、と』という問答が載っている。
　トップリーダーになるのと、なってからそれを維持するのとではどちらが難しいか、という問いを太宗が部下に発した。
　昔からの腹心の部下である房玄齢は、『群雄が競い合う中、それを次々に攻め討って降伏させる勝ち抜き勝負でこれを平定するのですから、創業の方が困難と言えるでしょう』と答えた。
　それに対して始めは政敵について後に太宗に見出された魏徴は、『新しい王朝は、前代の失政や混乱の後を受けて、それを打倒して誕生します。ですから天下は一応これに従うのであって、それほど困難とは思えません。しかし、一たびそれを得ると、驕りが出て考えが偏り、民の疲弊や困窮に気付かなくなります。国の衰亡は常にこれによって起こるのであって、そう考えると、守文の方が難しいと思います』と答えたんだ」
　修はなおも話を続けたい様子でしたが、雅人は思い切って頼みを切り出すことにしました。
「あの、ごめん……英語を教えてもらってもいいかな？　一人じゃどうしてもわからなくて……」
「なんだ、そうだったのか。お安い御用だ。２年の夏までには高校生過程は全部終える予定で自学自習を進めてるんでな。そうすれば３年は受験対策と知識の深化に専念できるだろ」
　ようやく英語を教えてもらえ安堵した雅人でした。
「うん、さっきの問答もなかなか面白かったよー」
「そうだろう？　知識を得るのは楽しいよな」
　

　そのころ教室を抜け出した真央は。
　旧市街でおネコさま自習を満喫していました。
　猫の居そうな場所に突撃し、常備しているカツブシ粉やまたたび粉を撒きます。
　そして猫が集まってきたところをデジカメ撮影するのです。
　夏の暑い中、走り回って汗だくですが真央は気にしません。
　目の前の光景にすっかり和んでしまっています。
　三毛猫、白黒のぶち猫、虎猫……デブ猫だったりスマートだったり。器量よしもブサ猫も、おネコさまはみんな可愛いくて。
　おネコさまに囲まれて暑さにぐらぐらしながら至福の時を過ごす真央です。
　皆は今頃教室で真面目に自習をしているのだろうか、とふと思い。
「刀ちゃんと円ちゃんが練習しなかったのは意外なのだ……２人なら素振りやシャドーするかと思ってたのだ」
　などとつぶやいてスポーツドリンクを飲みます。

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