＜CI@SP＞マヌカノイドはリアル・ワールドの夢を見るか｜リアクション

＜CI@SP＞マヌカノイドはリアル・ワールドの夢を見るか

　その夜、寝子ヶ浜交番は沢山の人形で溢れていた。
　桜台墓地の奥で回収された人形と、道すがら遭遇した人形が持ち込まれた為だ。
　中にはアーティを始めとする妖精の森から消えた人形数体や、咲希が失くした猫のぬいぐるみなどもあって、連絡を受けてすぐに取りに来た住民もいたものの……おまわりさんたちは、その日のうちに取りに来られなかったり、持ち主の分からない大量の人形の保管場所に頭を悩ませたのだった。

『マヌカノイドの夢が乗り移ったように動いていた人形たちは、桜台墓地の奥に集まっていた。何かをするでもなく、まるで『行ってみたはいいが、何もなかった』ので戸惑っているようにも見えた』
　誉や渚、協力者からの報せを受け、キャットアイランド側でも対応が考えられていた。
「もしその人形たちが本当に目指していたのが『こちら側』のその場所だとしたら、そこに何かがあるのかも知れない。改めて調査が必要だけど、それまでは両チャンネルの該当エリアは注意深く見ておく必要があるね」
　そう直樹は言うものの、彼や運営を手伝ってくれている人たちにはそれぞれ学校や仕事など、リアルの生活もある。
「そこは僕らに任せてよ」
　と引き受けてくれたのが、エスカルゴと理想学園の引き篭もりたちだった。
「え、それは助かるけど、エスカルゴさんたちも学校とか、大丈夫なの？」
「それ、今更じゃん……」
　ともあれ彼らも彼らで、ミケの桜台墓地奥、トラの記念樹公園の状態を監視する為にローテーションを組んだり、仮想空間内での団体行動を楽しんでいるようだ。

　人形の捜索、調査に関わった者たちにとっても、この事件はまだ終わった訳ではなかった。
　彼らは後々、こう思ったかも知れない。
　あの日のうちに原因となった人物を特定出来ていたら、全く違う明日が訪れたのだろうか――と。

　――現実の寝子島の、何処かの道。
　昔ながらの街灯の光に、蛾や虫が集っている。
　その下で、常闇月は緩く息を吐く。
（……桜台には幼稚園があった筈。でも、こんな時間では残っている子供もいないでしょうし、外で出歩いている子供もそうはいないでしょう）
　スポットライトにしては淡い光の中を、スラリとした長身の影が横切った。
「シグレ・ナイトウォーカーだ。八神から話は聞いている」
　落ち着いた声の紳士に、月は軽く目礼する。

「……なるほど、では明日はその少女を探し、接触を図ることが目的になるか」
「まず確認したいのは、彼女の手許に『緑色の小鳥』があるかどうか。少女と小鳥に、どんな力があるのか……細心の注意を払う必要があります」
「ああ。暴走している可能性があるからな……」
「私は明日、早めに動きます。放課次第、合流しましょう」
「了解だ。では、良い夜を」
　二人は互い違いの方向に歩き出し、人影は夜の闇に溶けていった。