金曜日の体育館裏｜リアクション

金曜日の体育館裏

　ジャラーンジャラーンジャラーン。
　蛇沼風弥のチェーンがぶらりぶらりと揺れている。
「ウチのシマでカツアゲたァいい根性だ。お天道様が見逃してもあたいが許さないよ！」
　風弥のチェーンを見れば、たいていの者は震え上がって小便をちびるものだが、マタ工の不良トリオは、なかなかどうして根性があるようだ。
　まったくひるむ様子がなかった。
　ド迫力の巨漢ボディの男が口を開いた。
「なんだそのチェーンは？　お前、自転車屋か？　バイク屋か？」
　ガリガリで栄養の足りなさそうな男は、こう言った。
「おれっちが『チェーン外れて油ぎとぎとになりながら必死に修理してるけどうまくいかなくて困ってる哀れな奴』に見えるってのか？　修理代いくらぼったくるつもりだコラ！」
　もう１人のモヒカン男は、風弥をいやらしい目で見て言った。
「こいつ震えてやがる。くくく……そのチェーンで、お前の体を縛ってやってもいいんだぜ～。ぐへへへ～」
　風弥は、確かに震えているように見えたが、面白すぎて肩を振るわせていただけだった。
「笑わせてくれるわ。あんたたち、サイコーだねェ～。あたいはチェーンのカザミさ。口が聞けなくなる前に、てめェらも名乗ってみな」
　ガリガリがずいっと前に出ると、そのままずいっと前に出た歯をかちゃかちゃ鳴らしながら、ひょこひょこと歩いて……背中を指してこう言った。

「おれっちの歩いたあとには墓の山……墓多豚骨（はかたとんこつ）とはおれっちのことよ！　金出しな！」

　その手を風弥に差し出した。
　風弥はゆっくりマスクを取り、ツバでも吐いてやろうとしたそのとき――
「くくくく。どきな豚骨。この獲物は俺のもんだぜ～」
　モヒカン男は、体をくねくねさせて自分の胸をもみもみしながら、

「ぐへへへ。俺の歩いたあとには女ども……そう、俺が東凶醤油（とうきょうしょうゆ）だ！　さらし、とってみ？　ん？」

　風弥は特攻服をバサッとはためかせて視界を封じた。
「いやらしい目で見るんじゃないよ、ったく。だいたいあんたたちね、名前くらいサッサと言えないのかィ？　次はあんただよ？」
　指名された巨漢ボディの男は、にっこり笑った。

「わしの歩いたあとには…………」

　豚骨醤油よりは風格の漂う巨漢男に、さすがの風弥も注目した。
「もったいつけてないで、とっとと言ったらどうなんだい。歩いたあとには何があるって言うんだよ、イライラするねえ」

「わしの歩いたあとには…………あとには……………………わしの名は殺幌味噌（さつほろみそ）！」

「忘れてんじゃないよ！」
　ビュン。
　風弥のイライラは頂点に達し、チェーンが味噌の顔面にぶち当たった。
「アゴブゲボゴ～ッ」
「ただ、まあ、そうだな……あんたたち、そこそこいい名前じゃねえか！」
　ひとしきり笑わせてもらって、少し気に入ったらしい。
　と、そのときだった――

「とおーう！」

　塀を華麗に乗り越え、謎の人間がやってきた。
　まるで特撮ヒーローのような出で立ちで、両足を適度にひらいて、いかにもなポーズをとっている。
「お嬢さん……もう大丈夫ですよ」
「お嬢さん？」
　お嬢さん！
　チェーンのカザミをお嬢さんと呼ぶとは、相当なタフガイに違いない。
　風弥は恐る恐る尋ねた。
「あんた、もしや……？」
「俺の名か？　よくぞ聞いてくれた……」
「いや、長そうだから遠慮するよ」
「いいや、名乗らせてもらおう。はっ！」
　ヒーローは再び塀にのぼった。
「長そうだねェ……」
　風弥はうんざりしてチェーンをぶらんぶらん。
　ヒーローは天高く拳を突き上げ、ザッザッとポーズをとって、

「直拳貫徹！　ザ・ストレイト！」

　意外と短かった。

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