夏のおでん鍋会｜リアクション

夏のおでん鍋会

○鶏小屋の拡張

(夏におでんとか……まあこたつでアイス食べるのと同じ感覚なのかな)
　白い金目銀目の子猫のサティを連れて、霧生深雪がやってきた。
「猫鳴館ってそういえば初めて来た気がする。
　うわめっちゃボロい……こんなとこに人住めんのか……」
　星ヶ丘寮住まいの深雪にとってはカルチャーショックだ。
　そこに修が声をかける。
「こっちだ、深雪、サティ。ブラックも連れてきてるから一緒に遊ぶといい」
「にゃー」
「ミャー」
「ああ、ブラックと遊ばせてやりてぇから連れてきたんだ。生まれたっていう鶏の雛も見ておかないとな」
　まずはおでん班に手土産を渡す。
「俺の持ち込み具材は同居人が下拵えしてくれた牛すじとロールキャベツだ。
　それにデザートにオレンジコンポートゼリーも作ってもらったから持ってきた」
「ゼリー、美味しそう！」
「おでんで温まった後に冷たいデザートでいいかと思ってさ。足りなくならないように沢山持ってきたから遠慮せず食べて欲しい。
　その代わり俺もいっぱい食う」
　深雪は修に案内されて鶏小屋に向かい、雛たちと対面した。
「雄鶏がてば崎、雌鶏がささ美。そして雛がラン卵とはんぺんだ」
　ヒヨコたちは恐れを知らないようで、小さなクチバシやおしりを振り振りチョコチョコ近づいてくる。　
「可愛いなぁ……つーか随分面白い名前の鶏達だな……」
　自然と深雪の顔がほころんだが、周りの視線が気になってすぐしゃきっと気を引き締める。
「ココッ」
「ミャー……」
　ブラックに引っ張られて鶏に近づこうとしたサティだが、雄々しくトサカや嘴を振るてば崎を見て後ずさる。
「サティは鶏初めて見たからか怯えてるみたいだ。怖くねぇんだけどなぁ……」

「おおーひよこ生まれたのかー。だったらちょっと小屋拡張しておこうかねー」
　そこへ初島優が道具箱を持ってやってきた。
　手先が器用な優は、鶏小屋を作るときにもずいぶん貢献している。
「ついでに暑さ対策も……屋根のトタンを白く塗って屋根の温度上がり難くなるようにしてー。
　小屋の壁板は夏の間だけほんのちょっとだけ隙間開けておくかー。
　通気性上げて小屋に熱が籠もらないようにーっと……」
「この暑さだし個体数も増えたんだから、鳴き声の騒音対策と糞尿の悪臭対策も取れよ。
　近隣から市役所に苦情が行ったらマズイ。手伝おうか？」
　修が声をかける。
「周り森だから街中より涼しいとはいえ鶏は熱にあんまり強くないらしいし、しっかりやっとかないとねー。
　ん、騒音はここは大丈夫だと思うけどねー、住人が爆発騒ぎ起こすくらいだから。でも悪臭はしないに越したことはないね。何かアイディアある？」
「そうだな、それなら……」
　修が自分の案を出し、手伝い始める。
　優は鶏小屋に貼ってあったイラストに気づいた。
「ん、これは……ふむふむ、なかなか……」
　優の琴線に触れるものがあったのか、そのイラストは、こっそりポケットにしまわれるのだった。
「なあ、変わった名前だけど鶏の名付け親って誰なんだ？」
　深雪の質問に。
「ああ……つがいの鶏は大部屋でみんなで相談して決めたんだ。雛のほうは、卵を発見した人が名付け親になったはずだよ」
「そうか……」
「修ちゃん優ちゃん、もうすぐおでんバトル開始なのだ！　食べにくるのだ」
　真央が猫鳴館から机を運んでくる。
「……ん？　おでんパーティー？　俺の分も残しておいてよー？！」
　優が言う。
　どうやらまだまだ手が離せないようだ。
「そんなんじゃバトルに生き残れないのだ！」
　不満げな真央に、修が声をかける。
「真央、机運ぶのを手伝おうか」
「助かるのだ。でも机は真央ちゃん一人で大丈夫なので、修ちゃんはタレが入ったボウルを運んでほしいのだ。たくさんあるのだ！」
「わかった。深雪も来るか？」
「ああ」
「いってらっしゃい～。俺は後から行くよ」
　優は作業を続けながら手を振った。
　