夏のおでん鍋会｜リアクション

夏のおでん鍋会

○準備が肝心

　おでんパーティーの開催を決めた雨崎荒太郎は、さっそく友人たちにメールや電話で連絡を始めた。
「なんでおでんパーティーかって？　うん、生まれたひよこが食べたくなっちゃう名前なんだよね～」
　ひよこの可愛さを語るのも忘れない。
　連絡を終え、いつもの野良着姿で庭でパーティー会場のセッティングを始める。
　今日は爽やかな風が吹き、夏としては絶好のおでん日和といえそうだ。
「みんなが寮に着く前に、薪割りを済ませちゃうよ～」
　外で薪の火を使っておでん鍋をするのは、ただ単にコンロに使うガスの節約というより、室内は暑いし、換気や防火のためだ。
　猫鳴館は築６０年、おでんのために火事になってはかなわない。
「ふぬぬっ！」
　力いっぱい木割を振り下ろし、薪を割っていく。
　そんな荒太郎を、生物部と寮で保護した飛べないカラスのちぎりが見つめている。
　生徒や鶏舎の鶏たちが心のケアをし、野生に飛び立てる時まで猫鳴館で放し飼いしているのだ。
「ちぎり～今日は誰が来るかわかるー？」
　荒太郎の問いにちぎりは、クァ？　と小首を傾げる。
「おまえさんが大好きな御巫さんも来るよ。いっぱいお話したいだろうからねー」

　台所では、友人への連絡を済ませた後木真央が鍋や調味料のチェックをしていた。
　大鍋からはすでに醤油のいい香りが漂っている。
「必要なものはこんなもんなのだ？　ではひとまず買い物行ってくるのだ♪」
　真央は買い物かごを持って走り出す。

　荒太郎が薪割りに精を出している間に、不穏な笑みを浮かべた影が鶏小屋に近づいていた。
「ククク、楽しいことになりそうだねぃ。買った具を普通に入れるんじゃつまらないからねぇ」
　骨削瓢が、鶏小屋の鍵を開け鶏たちに餌をちらつかせていた。
「ささ美はん、ちょっと来ておくれ。なあに、別にひどいことはしないよぃ」
　餌につられて近寄ってきた雌鶏のささ美をそっと抱くと、瓢はクックッと笑う。
　また小屋の鍵を閉めると、ささ美を連れてその場を去った。

　しばらくすると。
「ふふふーヒヨコさんに会いに来たよー♪」
　桃原空音がやってきた。
　空音は普段は旧市街に住んでいるが、猫鳴館に缶詰部屋を持っている。
　猫鳴館に来た時は鶏小屋に顔を出しており、ひよこのラン卵の孵化にも立ち会っているのだ。
「またまた、遊びに来たよーっ！　この前よりちょっと大きくなったかなぁ？
　鶏さんたちで擬人化出来そう……ょぅι゛ょ……」　
　何か不穏なことを呟きつつ、かわいいなぁかわいいなぁ、とひよこをなでて。
　空音は、ろっこんでお絵かき用のペンを出し、座り込んで擬人化したヒヨコたちを描き始める。
「ネタ帳は常に持ち歩いてるんだっ！　同人とはいえマンガ描いてるからね！
　ネタは忘れないうちにメモらないと！」
　たちまち可愛い幼女たちのイラストができていく。
「ヒヨコさんたちはちっちゃくて、可愛いペアルック。
　てば崎はお嬢様系で……ささ美ちゃんは清楚系！　あれ？」
　てば崎は雄鶏なのだが……浮かんだネタは止められず。
　夢中で描いていた空音だが、何か足りないことに気づいた。
「あれ？　ささ美は？」
　小屋を覗き込んでも姿が見えない。
「荒太郎くん！　ささ美はどこ？」
　一息ついて汗をぬぐう荒太郎に声をかけるが。
「えーっ？　いないの？　そんな、ちゃんと鍵をかけてたしひよこならまだしもささ美が迷子になるなんて……」
「愛し合う二人が引き裂かれるなんて、これは愛の試練？　探そうよ！」
　慌てた荒太郎と空音は、猫鳴館の庭を探し始めた。

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