ようこそ、海開き！｜リアクション

ようこそ、海開き！

●メイド海の家にて（９）●

【海の家・マーメイド】

「あ〜疲れたぁ、もうへとへとだよー。さっ、ご飯ご飯ー」
　今日の伊藤佳奈は迷子探しに、溺れた人のレスキューなど、人助けに大活躍だった。ようやくこの海の家で、遅い休憩時間が取れて、もうお腹はぺこぺこだ。
「海の家で食べるラーメンや焼きそばって、何故か美味しいんだよね。
　もちろん両方食べるよ！　店員さん、こっち注文お願いします〜」
　オーダーを取りに来た犬耳メイド、毒島林檎に注文を伝え、
「あ、ソフトクリームもね♪　……って、林檎ちゃん！？」
　何故かバイトをしている幼馴染、林檎を二度見してびっくりだ。
「なにやってるの、メイドさん？　しかも、そのわんこのお耳」
「ああ、ちょっと成り行きでな。無一文なので、
　かき氷代を身体で返しているところだ……わん」
　いつものマフラーだけはしたまま、憮然顔でそう答える林檎だけれど、
「へーでも結構、似合ってるよ！　可愛いと思う！」
　そっぽを向きつつ犬耳がぴこぴこしてるので、内心は満更でもないみたい？
「そっかー、ここ、メイドさんの海の家だったんだね」
　と佳奈も、エプロンをぱたぱた翻して働く店員さんたちを見回し、
（あ〜、お母さんなら絶対ここでバイトしたいって言うだろうな）
　コスプレ好きの母のことを考えて、ついくすりと笑ってしまうのだった。

「ラーメンと焼きそばですぅ、お待たせしましたぁ〜」
　その佳奈に注文の品を運びながら、添木牡丹もまたメイド姿で、あくせく立ち働く。
（さすがにへばってきましたが、でも今日のシフトも、もうすぐ終わり！
　その後はフリーです！　なんてったって、創君とのデートですから……きゃっ☆）
「えへへー、せーんぱいっ♪」
「はへ？」
　よく知るその声に振り向けば、海の家に小さなお客様。そのデート相手の当人、戌井創がにっこり、
「お疲れ様、お仕事頑張ってる？」
「なんで創君、だってデートの時間はまだ……」
「えへっ、待ちきれなくて、様子を見に来ちゃいましたっ。
　……め、めーわくだったかな？（うる……）」
　仔犬のように上目遣いで見上げる戌井の前に、ズダーンとテーブルを置き、
「迷惑だなんて、とんでもありませんっ。
　創君、ようこそいらっしゃいませ！」
　イスに座らせた彼の前に、てんこ盛りの料理を運んで、いたれりつくせりのサービスを開始だ。
「いっぱい、ご奉仕しちゃいますよ、えへへ///
　では、当店のサービスを早速……はい、御主人様あーん♪」
　見知った人の見知らぬメイド服姿に、少し頬を染めながら、戌井もにっこり、
「えへへ、あーんっ♪」
「あっ創君、お口にご飯粒が……取ってあげましょうね」
　指でつまんで、それをぱくっと食べてくれる牡丹に、今度はお返しで、
「じゃあ、ぼたん先輩も、あーんっ♪」
　２人で食べさせあいっこをしながら、仲睦まじくじゃれあうカップルだ。
「フフ……じゃあ次は、このオムライスにケチャップで、
　『創君ＬＯＶＥ』って書いてあげますねっ」
（わわっ、あのメイドさん、さっきからすごいサービスだなあ……）
　横目で見ていた伊藤佳奈の方が、恥ずかしくなって目を伏せちゃうような、そのイチャイチャラブラブっぷりに、
「……周りの人に見られてると、ちょっと、恥ずかしいね……」
　と戌井もちょっぴり人目を気にしたりするけれど、一方の牡丹のサービス精神は留まる所を知らない。
「はいっ、次はこちらです。当店のスペシャルメニュー、
　シークレットたこ焼き！」
　１人前につき１コずつのおまけのはずのピンクたこ焼きを、ごそっと持ってきて、
「同じ具材を当てたカップルは、相性ばっちりなんですよ」
「これで先輩と相性占い？　わわっ、ドキドキしてきたよー」
「大丈夫です！　こっそり柱の影から盗み見して、
　同じ具材のものだけ、持ってきましたから！
　これで創君と私は、相性ばっちりですぅ」
「こらこら、それじゃシークレットのイミないだろ」
　呆れてやって来たたこ焼き担当・海士野乙女が、はしゃぐ牡丹の襟首をつまんで、
「それにさっきから見てりゃ、お客さんの料理に手を付けたり……
　仕事中だよ、ちょっとはわきまえな」
「そ、そうだね、先輩もお仕事中だし……ボクばっかりじゃダメだよぅ」
　というワケで乙女にずるずる引きずられて、ここで牡丹、無念の退場……というか本来のお仕事に戻る。でも、そんな彼女に戌井が、すばやく耳打ちして、
「だから、えっと……お仕事終わったら、一緒に……ね」
　そのデートの約束を励みに、残りのシフトの時間を、がんばる牡丹なのだった。

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