●水着取材なのです！●


【寝子ヶ浜海岸・砂浜】

「やってきました、寝子ヶ浜。
　海です！　海なのです！　思い切り遊ぶです！」
　ポポンッと朝の陽射しに花が咲くように、カラフルなパラソルが続々とビーチに立ち並ぶ。
　今年初めての海に、歓声を上げる子供たちや、家族連れのウキウキした笑顔。そんな海水浴客たちに混じって、こちらも元気いっぱい、やって来たのは寝子高新聞部の椿 美咲紀だ。
「そして新聞部部員として、ばっちり取材もしちゃうのです！」
（これで経費請求がうふふふ……）
　と内心ニコニコしながら、熱心に日焼け止めを塗っている女の子に、さっそくカメラを向ける美咲紀だ。
「寝高新聞部です、水着姿を撮らせてもらっていいですかぁ」





「ふぇっ？　わた、私ですかぁ？」
　顔を上げて、思わぬ取材にうろたえるのは北原 みゆき。
「ほうわー北原さん、可愛い水着なのです！（キラキラ）」
　美咲紀の言う通り、今日のみゆきはとても可愛らしかった。ドットプリントのトップスにスカートタイプの水着は、幼い顔立ちの彼女に、よく似合っている。サイドテールにまとめた金髪も、いつものみゆきとは違った、ちょっとアクティブな雰囲気だ。
「胸許の黒いリボンも、甘くなりすぎないワンポイントなのです！
　スカートのグラデーションカラーは、今年の流行ですかぁ？（ＩＣレコーダー向け）」
「は、流行りかどうかは分かりませんが……」
　ドギマギしながらも答えるみゆき、
「これ、お母さんと話し合ってデザインした、オーダー品なんですぅ。
　ちょっと高かったけど、これなら洋服みたいで恥ずかしくないかなって。
　その……体型も隠せますし（もじ）」
　どうやら自分のことを、『ちび』で『おでぶ』だと思い込んでいるらしいこのみゆきには、これが精一杯の露出だったよう。しかし出るべきトコロは、きちんと強調されたデザインになっているあたり……（お母さん、ナイスお仕事です！）
「美咲紀さ……ちゃんも、そのマリンルック、とっても似合ってるよぅ」





「ハイッ、このロングＴはお気にーなのです！
　裾がスカートっぽくて可愛いんだもん♪」
　ビシッと敬礼ぎみに、元気よく答える美咲紀、
「これで、取材中の激しい太陽さんとも戦えます。
　そして下は学校指定のスク水だから、このまま泳いでもＯＫなのです！」
「わぁ、気持ち良さそう」
「北原さんは今日の海開き、何して過ごす予定ですかぁ？」
「私も、浅いところで泳いでみるつもりだよぅ。
　溺れて迷惑かけないように……（←フラグ）
　あと、お友達が大きな計画立ててるみたいだから、それもお手伝いできたらいいなって」
「ほうわー楽しそう！　後でまた、お話聞かせて下さいねぇ！」


　みゆきにお礼を渡して別れ、そしてすぐにまた、ビーチの注目を集めている次の取材対象を見つける。
「あっ、そのサンマさんパーカーは綾辻さん？
　よかったら、写真撮らせてもらえませんかぁ？」





「えっ……」
　と振り向いたのは、フリルのビキニ姿がまぶしい、綾辻 綾花だ。
「取材……ですか？　よかった、また男の方から声を掛けられたのかと」
　みゆきと同じくスカートタイプの水着だけれど、こちらはヒップからウエストのラインをしっかり見せる、もう少し大胆なデザインだ。センターのビッグリボンが、胸許を大胆に強調し、これじゃすれ違う男性が皆、思わず綾花に声を掛けてしまうのも、無理からぬ話である。
　もっとも本人の方は、これまたみゆきと同じく、自分の魅力には無自覚なようで、
「水着だけじゃ恥ずかしいからパーカーを着てきたんですけど、
　サンマさんパーカーって逆に目立つような……？」
　と不思議顔。
「今日の水着のポイントは、ズバリ何でしょうっ？」
「水着……ですか。この肉球のデザインでしょうか？
　とても可愛くって、お店で見てすぐにレジに向かいました」
「今日は、何をして遊ぶつもりですかぁ？」
「そうですね……お友達のののこちゃんが、あそこで何か作ってるみたいなので。
　いっしょに砂遊びしようかなって、思ってます」
「ありがとうございました！　これ、取材のお礼のミサキュウリですっ」
　割り箸にざくっと刺したキュウリを渡され、ちょっと綾花が驚く。
「ミサ……キュウリ？」
「そうです、星ヶ丘の家庭菜園で採れた、美咲紀印のミサキュウリ♪
　夏野菜のキュウリさんは、身体を冷やしてくれるのです！
　良く冷やして、食べ歩きできるようにして来たの。美味しいよ？」
「（ぽり）あっ、本当に新鮮……うふふ、じゃあ遠慮なく頂きますね」


　次に美咲紀が呼び止めたのは、エメラルドグリーンのビキニで堂々と、ビーチの真ん中を行く桃川 圭花だ。
「へえ、水着取材？　別にそこまでバッチリ気合入れてきたわけじゃないけど……
　まあどうしてもって言うんなら、ノーギャラで取材させてあげてもいいわよ」
「桃川さん、今日の水着のポイントは何でしょうかっ？」
「無いわね（即答）。でも強いて言えば、この髪飾りかしら？」





「ヒマワリのモチーフですね、とっても華やかでまぶしーです！」
「そう？　色も綺麗だし好みなんだけど、ちょっと……子供っぽくない？」
「そんなことないですよっ。
　ヒマワリの花言葉は『私はあなただけを見つめる』。
　憧れと情熱を象徴する、お花さんなんですよ♪」
「へえ、そうなんだ……ふーん」
　花に詳しい美咲紀に、ちょっと虚を突かれた様子の圭花だ。
「きゃっ（ミサキュウリをマイク代わりに向け）
　誰か好きな人とか、いるんですかぁ？」
「うん、何でそういう質問になるのか全然分からないけど。
　でも、さっきからどうしても目が離せない人ならいるわね」
　ぴっちりＶ字水着で、ビーチの注目を一身に集めている、あちらの寝子高教師を指さし、
「あれ、フジコ先生よね……いや、見間違えようないけど。
　新聞部さん、あの大胆水着は取材しないのかしら？」
「あはは……はい、アレは……流石に……」
「ヴィーナスならともかく、ねぇ……
　浜辺のスパルタカスが視線を独り占めしてるってのはどーなのよ？
　なんかシャクなんですけど。この上なく」
　そこで圭花は、フジコちゃんへのちょっとしたイタズラを思い付いたようだ。
「フフ……このあたりでちょっと、休憩してもらいましょうか」





　続いてやって来たのは、ジャンヌ・クローデルと詠坂 紫蓮。こちらも絵になる可愛い２人に、腕を絡めたツーショットの写真をお願いする美咲紀だ。アネモネの髪飾りや、瞳の色とお揃いのジャンヌの水着に、チェック柄がキュートな紫蓮のビキニ。どちらも胸許のリボンと、フリル使いのデザインが愛らしい。
　今日は何をしに海に？、と問われたジャンヌは、
「紫蓮さんが……バイトを探してるって聞いたから。
　じゃあ今募集してる海の家で一緒にやろうか、って話になったんだ」
「やっぱり高校生になったんだし、
　バイトとかにも挑戦してみたいよね。
　夏休みも、もうすぐだし！」
　あちこちでバイトをしているジャンヌと比べて、紫蓮はこれが人生初のバイト。初めてのワクワクとちょっぴりの不安に、しっかりジャンヌの手を握りしめ、
「１人で、っていうのも心細かったから、
　ジャンヌさんと一緒に働けて助かるよ。
　それに海の家でバイトって、ちょっと楽しそうだし」
「僕も……日本の海って初めてだから楽しみだな」
「うん！　せっかく水着も持ってきたんだから、後で遊ぶ余裕もあるといいよね」
「２人とも、お仕事がんばってなのです！
　海の家は私も、後で取材に行っちゃいますね〜（メニューの代金は経費でうふふふ……）」
　ぶんぶん手を振る美咲紀に見送られ、バイト先へと仲良く歩いていくジャンヌと紫蓮たち。


　しかしその海の家「マーメイド」が、オーナー不在でとんでもないことになっているのを、この２人はまだ知らないのだった……。