●わんこかき氷大会（６）●


【海の家・マーメイド】

「──優勝は、天満 七星さんに決定しました！
　七星さん、おめでとうございますっ！」
「へっ……私ですか？」
　きょとん、としている七星に、宮祀 智瑜が勝因を解説する。
「何人か早とちりしている方もいらっしゃったみたいですが、
　この大会に、制限時間は設けられていません。
　──強いて言えばリミットは閉店まで、でしょうか？
　スピードにこだわらず、ひたすら自分のペースを守って、
　スローペースで食べ続けた七星さんが、結果的に１番たくさん器を空にしていました。
　その数、なんと７６パイ！　おめでとうございます！」
『勝負が終わったら皆仲良くね！』
　率先して立ち上がり、拍手を贈る毒島 林檎に続いて、店内が割れんばかりの拍手に包まれる。
「天満さん、寝高新聞です、優勝コメントをお願いします！
　この喜びを先ず誰に伝えたいですかぁ？」
　すかさずＩＣレコーダーを向けて、パシャパシャ記念写真を撮る椿 美咲紀に、
「え、ええと……そうですね、とりあえずお父様でしょうか？」
　電動の犬耳をまだピコピコさせながら、おっとりとインタビューに応じる七星だ。
「えっ、食べた分はどこにって？
　それは淑女の秘密というやつですわ。
　気にしないでくださいまし（にっこり）」


◇


　そして敗れた参加者たちには、かき氷代が全額請求され、ちょっとした悲喜劇がまたあちこちで引き起こされる。途中でダウンした新井 すばるのかき氷代は、
「もちろん、約束だから代金は払ってあげるわよ」
　とブリジット・アーチャーが、ゴールドカードを差し出すが、
「えっ、もしかしてカード使えない？　海の家舐めていたわ。
　と、いうことで、すばる、悪いけど代金は払っておいてね」
「えええ！？　ブリジットさん、そんなー！？」
「まりもこ君、あたしもお金ないんだ。くれ」
「わわ、えーこ持ってないのっ！？」
　虎沢 英子も、堂々とかき氷代を緑野 毬藻仔にたかって、その驚愕の料金に、
「持ってきたお金で足りるかなぁ……」
　お財布を逆さにひっくり返して、とほほな毬藻仔だ。
　かき氷代だけでなく、途中からメニューを全制覇した巫部 紫苑も、
「代金ですか？　あら、少し足らない……体で払う（バイト）しか無いですね」
　と厨房のバイトへ入る。毒島 林檎や神野 マキナもまた代金が払えず、それぞれ犬耳メイド、イケメンメイドとして、ご奉仕に励むことになった。


　こうしてマーメイドは、本日１番の売上をこのイベントで稼ぐことに。
　そしてこの売上金を、開店当初から虎視眈々と狙っている人物がいた。
（すでにバレバレだけど）ハミパンセーラー服メイドのこの店員、北 玄だ。







　……ええと、ごめん、何でセーラー服なのかな……？（困惑）
「メイドの起源は紀元前４０世紀の中国のＩＴ技術者、鳴弩ですよ！
　鳴弩をカントン語読みするとセーラーですよ！
　メイドとセーラーの起源は同じですよ！
　小学校の頃、代議士の先生が夢の中で言ってたから間違いないですよ！
　だから僕、セーラー服で働いてるですよ！」
「紀元前４０世紀にＩＴはないと思いますが……」
　熱弁をふるう北に、通りすがりの森 蓮が、とりあえず真面目に突っ込むが、それはガン無視して、いよいよメイド北が店の売上金に手を付ける……！
「「そこまでですよ！」」
　哀坂 零葉と白咲 琴音の鋭い声がとび、そしてレジ前にずらっと並ぶメイド店員たち。その中から浅山 小淋が１歩進み出てフリップドン、
『北さん……北さんが売上金を着服しようとしていることは、
　何故か私たちには全員分かっていました』
「なん……だと……」
『（ぺらり）今ならまだ未遂です、警察に自首して頂けませんか』
「これは孔明の罠ですよ！　仕方ないです、ここは逃げるがビクトリーですよ！」
　全力でレジ前からＵターンしてトンズラする北、
「でもその前に、通りすがりの森さんに暴力振るうですよ！
　本当に仕方ないですよ！　『トンファーキック！』と叫びながら攻撃するですよ！
　きっとイラストみたいな蹴りがくると森さん予想するですよ！
　そこで剣道の面みたいにトンファーを上段から振り下ろすですよ！」
　ものの見事に、トンファー攻撃を貰ってうずくまる、ああ可哀想な森くん。
「一体いつから──トンファーを使わないと錯覚していた？
　催眠術ですよ！」
「玄さんはキックと言っていたようですが、なぜキックなのに棒を振るのでしょうか？
　これは禅問答ですね、時間があるときにじっくりと考えてみましょう（好意的解釈）」
「いい加減にしなさい、もう警察を呼びましたよ！」
　琴音の声に振り向けば、ジュラルミンの盾を前面に押し寄せる、警官の大群が！
「……警察が来た……だと……
　でもこんなこともあろうかと、パラグライダー背負ってたですよ！
　崖から飛び降りて遠くまでトンズラですよ！
　あ、これベースジャンプ用のパラシュートだったですよ！
　海に落ちるですよ！
　泳いで逃げるですよ！
　海上保安庁も驚く着衣水泳ですよ！
　こんなの日常Tea飯事ですよ！
　海兵隊も見習うといいですよ！」


　もはやどこからどこまでが北の冗談なのか、さっぱり分かりません。
　とりあえず、マーメイドの今日の売上金は手付かずで無事だったので、売上を着服しようとしていたあたりから、北の妄言だったと信じたいところだが……ああでも森くん、きみホントに怪我してるね？
「玄さんに前科がつくと社会復帰が大変ですから、被害届は出しません」
　するめいか咥えたメイド毒島 林檎に、ろっこん治療を受けながら、淡々と森が言う。
「最近は加害者との示談交渉や和解交渉の切り札として
　被害届を出す方もいて、問題になっているそうですから」
　そ、そうですか……。とりあえずその怪我、お大事にして下さいね……。