Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

　お金を追ううちにジャンヌ・クローデルは祥子と宮祀智瑜を見かける。
　祥子はバイト先のひとつ寝子島製パン【風麦堂】のお客様。
　おつかいにやってくる喜好君にお店の菓子パンをプレゼントすることもままある。
「Bonsoir.喜好君のお母さん」
　知り合いだから。と反射的にジャンヌは声をかける。
　声をかけてから、いまの状況を思い出して、ジャンヌは聞き直した。
「お母さんもお金飛んでっちゃったのかな？」
「あらジャンヌちゃん……もしかしてあなたもなのかしら～？」
　予想は的中した。
　話を聞くと、お金の心配以上に走り去った喜好の心配をしているようだった。
「僕で良ければ一緒に探すよ。その代わり僕のお金捕まえるの手伝って欲しいな」
　お金を捕まえるうちにきっと喜好が見つかる。そんな希望的観測を交えたお願いだ。
「もちろんお手伝いさせてください」
　智瑜がにこりと笑ってくれた。
　可愛らしい人好きする笑顔だとジャンヌは思い、つられてぽやんとした笑みを浮かべた。
「ねこったーでも騒ぎになってると思うんで、ちょっと確認してみますね」
　ジャンヌはこくと頷いて、周りを見た。
　この辺りにお金はもういないようだった。
「誰か来るね」
「あら、本当ね？」
　ジャンヌが言えることでもないが、また人がやってきた。
「あら……？　荒井さん、それに毒島さんじゃないですかぁ～いつも喜好がお世話になっております」
「あれ、祥子さん？　どうしたんですか？　って柘榴さんまで」
「そりゃこっちのセリフだぜ。俺は祥子さんを探しに……」
「ええ、私をですか～？」
「電話しても出ねぇからよ。イヴが心配して、な」
「あら、ごめんなさい……」
　毒島柘榴との会話が一区切りつくと、今度は荒井景貴が話す。
「僕は明日のお菓子の材料が足りなかったもので」
「あれ、もしかしてうちにご用でしたか？」
　ねこったーをチェックしていた智瑜が顔を上げる。
　景貴は喜好のお手伝い先洋菓子店『Raton』の店長。当然祥子とも顔見知りだ。
　彼の事情もわかったところで、祥子と共に彼にも事情を話す。
「そうだったんですか」
　景貴は静かに頷いてから「僕もお手伝いさせてもらいますね」と柔和な笑みを浮かべた。
「俺は、端からそのつもりだ」
　柘榴はそっけなく、けれど当たり前のように言ってのける。
「荒井さん、毒島さんまで……皆さん、ありがとうございます」
　祥子は深々と頭を下げた。きれいなお辞儀である。
「気にしないでください」
　ジャンヌがそう言っているうちに「ちょっと失礼しますね」と景貴が携帯電話を取り出した。
（みんなねこったーっていうのが好きなんだね）
　祥子とジャンヌはぼんやりとふたりの操作が終わるのを待った。
　景貴は電話を誰かにかけた。

　ちなみに携帯電話を活用しているのは彼らだけではない。
「面白いことになってやすねぃ～」
　夜の旧市街では、携帯の明かりはまぶしすぎる。
　骨削瓢はしわのように見えるほど目を細め、くつくつと笑い声をあげた。