Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

　喜好が追いかけるお札はあと一枚。
　けれど残る一枚との戦いは、まだまだ先の見えないものだった。
　北原みゆきのまつげが、エメラルドグリーンの瞳にうっすらとした影を落とす。
　追い込み作戦は、おおよそ成功した。全力を尽くした。けれど肝心の一万円を捕まえることができなかったのだ。
　一万円札は賢いらしい。
　肩車をした状態では機敏な動きは出来ないことを、こちらが連携して行動していることを把握し、頑として降りてこようとはしなかった。
「……ごめんなさい」
　非もないのにみゆきは謝罪の言葉を口にする。
「……北原が悪いわけじゃないから、それに」
　篠崎響也は視線でみゆきに喜好を示した。
「お姉ちゃん、そんな顔、しないで」
　喜好の目は焦げ茶の前髪に隠れてよく見えなかった。
　けれど、その表情はいやというほど伝わってくる。
　そしてその後言おうとした言葉も。
「ぼ、」
　ぼくのせいで。
　それは言わせてはいけない。
　みゆきは慌てて強引にむりやりとにかく笑顔を浮かべる。
「ううん、なんでもないよ。さ、がんばろう！」
「う、ん」
　そうは言ったものの、なにか案があるわけでもない。
　どうしようか。
　ネガティブな思考に傾いていかないように、前を見ると。
「あれ……？」
　救世主、かもしれない、人が来た。