寝子島★トマト祭り｜リアクション

寝子島★トマト祭り

　冬馬と剛は共闘の構えだ。
「剛にぃ！　俺、良い事考えた！！　ちょっと耳貸して」
「ん？　なんや冬馬」
　ごにょごにょごにょ。
「ふんふん、なるほど……」
　そうしてお目見えしたのは、剛が冬馬を肩車して、参戦するという大胆な構図であった。
「名付けて肩車大作戦だぜ！　俺が上に乗って、剛にぃをナビゲート！　しかも上から無差別に、トマト投下攻撃まで出来ちゃう完璧な作戦だぜ」
　どうやってトマトを拾うんだろう、と周囲は思ったが、剛が拾って冬馬に渡すらしい。
　かなりの筋力とバランス感覚を必要とする、この作戦。互いの信頼関係があってこそ、成り立つと言えよう。
「生き残るで、ふゆちゃん！　剛さんが守ったる」

「よーた。共闘するぞ……」
　陽太と彩斗も、同じくコンビで戦う算段だ。
　彩斗は物影に “秘技トマト落とし” に使おうと、バケツを隠していたのだが、この競技は残念ながらバケツなど持ち込みはルールによって禁止されていた。
「靴や目を保護するための、水中眼鏡だけは辛うじてＯＫみたいだねぃ」
「……水中眼鏡がＯＫだっただけでも、よしとするか……」

「役者が揃った所で、改めて……」
　実が利悟に目配せする。重々しく頷き、利悟はおもむろに手を上げた。

「れでー……ご――じゃっ！！」
　こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

「よーし頑張るぞー！」
　ももんが羽衣は、とにかく手当たり次第にトマトを掴んでは投げた。
「えーい、えーい！！」
　ちまちました動きに、周囲もやんややんやと手を叩く。

「おい、狙われてるぞ！　避けろー！」
　観客席の黒子が、羽衣の背後を指摘した。
　だが陽太が投げたトマトが、羽衣の背中にヒット！　飛び散った飛沫が被毛に赤く散って、見ている人の悲愴感もアレでソレだ。
「おー、景気良く当たったわー……」
「……的が大きいからな。でも周りを楽しませようっていう心意気は、買う……」
「ありがとっ、どんなにぶつけられてもめげないんだから！」
　羽衣は戦意を喪失していない。
　トマトを掴むために、茶もふの背中を向けた。その瞬間を狙って、彩斗・陽太ペアのトマトが飛ぶ。
「隙、あり！」
「勝負は、勝負だよぅ～」

「きゃ――！？」

　しかし乙女のピンチに、先輩二人が割って入った。
「うおっ、やらけートマトでも、やっぱ結構いてぇ！」
「すっごくいいもの見せてもらったし、お礼さ！」
　正也＆竜司の女子の肉壁ーズである。
「せ、せんぱい達……」
「ふ……だが男には、全力で投げ返すぜっ！」
「後は任せな！　そしてこれ以上、後輩（の女の子）をトマト塗れにさせたかったら、俺を倒してからにしろー！」

　無論、そんな言葉で躊躇する彩斗ではない。
「じゃあ、遠慮なく……」　
　立ちはだかる竜司に、トマトをぶつける。
「あやと、避けろー！」
「……了解」
　彩斗は相手の動きを良く見て、少ない動きで正也が投げたトマトを避け、尚も肉壁な二人をトマト塗れにしていった。

「皆がんばれー！」
　トマトゼリーや、きゅうりスティックを手に、緑野毬藻仔は応援に力が入る。
　ちなみにルールは理解していない。
「これってどうやったら勝ち？」
「さあっ！」
　一緒に観戦している納十一は、いい笑顔でトマト鍋もぐもぐ。
　一寸、毬藻仔は首を傾げたが、次の瞬間にはキュウリをもぐもぐ。
「まあいっか、ファイトーっ！」

　一方、今だけ出店に『休止中』の看板を置いて。旅鴉月詠はスケッチブックに、筆を走らせていた。
　デフォルメした人物達が、トマトをぶつけ合う風刺画は鉛筆で。
　ハジケる若者を、色鉛筆で。
　そして祭りの動きを見守る、老爺を水彩色鉛筆で。
「ふむ、なかなか……これは後で綺麗に仕上げよう」
　後でトマトや他の野菜の静物画も、水彩で仕上げるつもりだ。
　こうした雰囲気の中で描くのは、アトリエで描くのとはまた違った躍動感がある。
　まだ若く、しなやかな感性を持った芸術家は、貪欲に新たな白い画面と向き合った。