襲撃！　ねこっこ☆もんすたー｜リアクション

襲撃！　ねこっこ☆もんすたー

　旧市街にからりとした風が吹く。
「今度はこっちの世界で実体化かよ」
　ライレエ・アーレンスは肩の塵を払うかのように軽く息をついた。
　実際は肩の上にはライレエよりもずっと面倒くさそうにしているテーオー（モデル：テオドロス・バルツァ）がいるので、肩を払うようなことはしないのだけれど。

「旧市街にサンマの奴が居るのか？」
　ライレエは思わずテオに尋ねる。
「……ああ、お前はテオとは違うんだっけ」
　と言っても彼はどこ吹く風。つんと鼻をとがらせている。
「ま、てーおーをつれて旧市街に向うとするか」
　ライレエはテーオーとの対話を諦めて、サンマさんっぽいアキカタナを探し始めた。
「ん？　どうした、てーおー？」
　旧市街に入ってしばらく。
　ツンツンお猫様は優雅に彼女の肩から飛び降りて、てくてく自力で歩き出した。
　いったいどういう風の吹き回しか。
　ライレエは首を傾げた。
　そして。
「魚屋の前で座り込みやがった」
　ライレエは呆れてものも言えない。
　なにも言わずにテーオーの反応を待ってはみたが、心の中に語り掛けてはこなかった。
　しかし言いたいことは彼の不機嫌な顔が、口が、眉間の皴が雄弁に語る。
「魚食わせなきゃはたらかねぇってことかよ」
　先よりもずっと重たいため息をついた。
「さすがは神経の図太い神様がモデルだけあるな」
　本物のテオであればきっとこんなようなことはしない！　ような気がする。たぶん。
　なんにせよライレエはものすごく不満げに魚屋のおっちゃんに声をかける。
「なにをお求めかな？」
「そうだな……」
　正直テーオーがなにを食べたいかなんてちっともわからなかった。
　だからと言ってなにが食べたいかテーオーにわざわざ尋ねるのも癪に障る。
　色々と悩んだ結果、北海道で水揚げされた夏サンマを購入することにした。

　いつもと変わりない旧市街の石畳。
　後木真央はふしゅぅと体内の空気を吐き出した。
「サンマさん……じゃなかったアキカタナはヒエラルキー最下位なのだ足元お留守なのだ殺ってやるのだ！」
　彼女の愛らしい顔が不機嫌にゆがむ。
　理由をひとことで言うならば至福の時間を邪魔されたから、ということになるだろう。
「お猫様～カツブシ粉なのだ～！　うまうまなのだ？」
「にゃ～」
「かわいいのだ～もっふもふなのだ～」
　こんな感じで遊んでいたら唐突にテオの声が聞こえて、この世界にぶち込まれた。
　当然お猫様は現実世界に置き去りだ。
　そんなわけで真央の機嫌は珍しく最悪。
　その怒りをアキカタナにぶつけて発散しようとしていた。
「がおー、旧市街に居るアキカタナを全員ぶっ転ばすのだ～！」
　いざゆかん。
　右手を虚空に突き上げ、前を向く。
　すかさずろっこんで猫を召還して、アキカタナの捜索を命じた、そのとき。
　ちょこん。真央からしたら巻き込みやがった張本人、テーオー様が鎮座していた。
「なんでテーオーが居るのだ～!?」
　怒りよりも驚き。驚きよりも絶望が勝る。テーオーといえば改造ねこモン内チートキャラ。
　真央曰くヒエラルキー最下位のサンマっぽいのと戦うのとはわけが違う。
　進むべきか退くべきか、それが問題だ。
「いやでもこれテオを撫でまくれる機会だと思えばっ……」
　覚悟の瞬間である。
「突撃するのだ～！」
　真央は無我夢中で魚屋のホースを手に取った。