ある雨上がりの戯れ｜リアクション

ある雨上がりの戯れ

　学校を出るのが少し遅れてしまった内匠歩は、気持ち急ぎ足で歩き慣れた道を下校する。

（帰るのが、遅くなるかなあ……？）

　思いながら歩いていた。歩いていたはずなのだが、いつの間にか歩いていた場所とは違う景色になっている。
　振り返るとそこに寝子高は……無い。

（あれ？）

　立ち止まって直前の行動を思い返す。

（確か水溜まりを踏んで……）
　
　水溜まり。そう、水溜まり。
　好奇心を抱きつつ、もう一度水溜まりを踏んでみることにする。
　景色が変わって、先程とは別の場所に歩は立っていた。近くに見える建物は、星ヶ丘教会だ。

（もしかして移動できる？）

　確信を得て、歩は水溜まりをじっと見つめる。
　この水溜まりに気付いている人は他にもいるのだろうか。もしかしたら、これの体験を通して、交流が生まれるかもしれない。
　そんな楽しみな気持ちを抱きながら、歩は再び水溜まりに足を踏み出した。

　寝子島神社に移動すると、境内には先客がいた。
　歩と同じく水溜まりを踏んで移動してきた人だろうか。寝子高の制服を着ているから、もしかしたら同級生かもしれない。

「君も水溜まりを踏んで転移してきたのか？」

　話しかけようか迷っている間に、相手の方から声をかけてきた。

「あなたも？」

　頷いてから聞くと、相手も歩のように頷く。
　さらには、彼の考える水溜まり移動の要因を説明してくれた。
　しばらく話すと、また別の場所に移動してみるからと彼は言った。
　彼が水溜まりを踏む直前、思い切って歩は聞いた。

「名前、教えてもらってもいいですか？」
「八神修だ。君は？」
「１年芸術科の内匠歩です」
「同じ１年だな。内匠、また学校で会おう」

　修がいなくなってから、歩も「また」と口にする。
　友だちができたことに安堵しながら。