【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線

●２日目：朝

　期末試験二日目。
　今日は、英語、美術、社会と３科目の試験が予定されている。
　ゆえに、ここが山場、という者も少なくない。
　カンカン照りの昨日とは打って変わって、この日は朝からどんよりと雲が立ち込めていた。湿度が高く、まるで昨日の熱を吸い込んだドラゴンが蒸気とともにそれを吐きだしているかのような、いやらしい暑さだ。
　
　白衣に眼鏡がトレードマークの伊賀解理は、ポケットに突っ込んだ手をパタパタさせて太ももに風を送りながら講堂に入ってくると、近くの席の蕎麦屋すすきのの娘、薄野五月に挨拶した。
「おはよう。くそぉ、今日はいつになく蒸すと思わないか？　クーラーはまだ直ってないのか！」
　おはようございます、と五月は教科書から顔を上げる。
「さっき先生が来て、業者さんに頼んだけど修理に午前中いっぱいはかかりそうだと言ってました」
「なんてこった！　この湿度のままテストなのか！」
　解理は大げさに嘆き崩れる。
「たしかに今日はあまりええお天気ではないですねー。まるで天気が今日のテストの出来を予感しているかのような……」
「そんな縁起の悪いことをいわないでおくれよ。今日の教科が苦手なのかね？」
「いや、実はそうなのですよ。苦手な英語と美術の２つが重なるなんて……勉強はしてきたのですが、少々憂鬱だなぁと思いまして。もっとも美術は好きですし、社会も歴史とかそういう暗記系は問題ないのですが」
「問題は英語か。どこが苦手なんだ？」
「何というか……こう、イマイチ理解出来ないんですよね。最初の頃は単語が覚えられて楽しかったんですけど。でも文法とか、そういうのに躓いて、気が付いたら苦手になっていました。センス、でしょうかね？」
「センスうんぬんはわからんが……蕎麦屋に外国からの観光客が来るかもしれない。将来役に立つかも、と思えばどうだ？」
　五月は解理の顔をまじまじと見た。それから眼鏡を外し、思いきり顔を手でぱんぱん、と叩く。
「……よしっ」
　赤みを帯びた頬。眼鏡を掛けなおしたその瞳には、静かな力が宿っている。
「ありがとうございます。気持ちまで憂鬱になっていたら、それこそテストの足を引っ張りますね！　頑張ってきた分を出し切れるようしっかりやりましょう」
「その意気だよ」
　図らずも五月を励ますかたちになった解理は、なんだか自分も頑張ろうという気になった。

　席につき、最後の復習をしようと単語帳を取り出す。だが次の瞬間。
「ぐああ、不快すぎる……湿気で僕の白衣がしっとりしてきてるじゃあないか！」
　解理は悶えだした。
「これは潔く脱ぐ方がいいのだろうか……いやだが、白衣がしっとりしてるという事は、その下もばっちりしっとりしてるということであって、つまりはシャツが透けてしまうわけで、つまりはその下の素肌も見えちゃうわけで」
「大丈夫、ベストは透けないですから」五月が冷静にいい添える。
「ありがとう薄野殿、そうだな。決心がついたよ。……ようし、キャストオフ！！！」
　掛け声とともに解理は、ぶわさっ、と派手に白衣を脱ぐ！

　……べつになにも起こらなかった。
「よし。これは椅子に掛けておこう」
　妙に丁寧な手つきで白衣を掛けた解理の傍を、黒パーカーの黒兎都が通りかかる。涼しそうにしてる解理をちょっとうらやましく思いつつ、都は今日も耐えるつもりだ。