【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線

●プロローグ

「暑いな」
　楪櫻は空を見上げた。
　いつもどおりの時間。いつもどおりの道。
　いつもどおり一つに結った長い黒髪が、朝の光に揺れる。
　真っ青な空。太陽はすでに白く高い。
　どうやら今日は、いつもより暑くなりそうだ。
　早朝だというのに、アスファルトが陽炎で揺らいでいた。
　そんな７月のある日。

　開門と同時に櫻は寝子高の門をくぐる。
　これも櫻のいつもどおりだった。朝５時に起床、開門時間には登校し予習復習をして授業開始を待つ。そのかわり、夜は早めに休む。
　ただひとつ、いつもと違うのは。
　今日が――今日から始まる４日間が――期末テストだということ。

　例えテストであっても、普段の生活を変える必要はない、と櫻は思っていた。テストというのは日頃の積み重ねを問われるもの。普段通りでいれば少なくとも悪い点を取る事はないだろう、と。
　講堂に入ると、すぐさま自分の席につき、ノートと教科書を開いて目を落とす。
（中間テストは徹夜での勉強会に付き添ったが……）
　櫻は生真面目なまなざしをすこし緩めた。
　今回はそれも無かったから、普段通りの自分で挑めばいい。
　後からやってきた生徒たちと挨拶を交わしつつ、最後の復習に精を出していた櫻だったが、目の前を通りかかった小柄な少女がふらりとよろめいたのを放っておくことはできなかった。
「大丈夫か？」
　櫻が差し出した手を取ると、アニエス・クロッツは茶色のショートボブを整えながら、たはは、と笑った。
　かわいらしい太眉がちょっぴりハの字になる。
「ありがとデス。今日はアチチでヘコタレなのデス」
　フランスと日本のハーフであるアニエスは、ちょっぴりズレた日本語を駆使しながら、はふう、と仔犬みたいにため息をつく。
　空調はどうしてしまったのだろう。今日みたいな暑い日は冷房が効いてほしいところだが。
「暑いけど、がんばてテスト勉強してきたので、その結果が出るといいデス。……不思議と昔から平均点は取れないんデスけど」
「そうか。まあ、気張らずにな。もちろん悪い点数は取りたくはないだろうが、よい点数を取ろうと変に気張ってしまっても、普段通りの実力は発揮出来ないだろうからな。応援している。わからないところがあったら教えるぞ」
「ほんとデスか？　じゃあココ教えてくだサイ！」
　アニエスはぱっと顔をかがやかせ、国語で分かりにくかったところを質問する。
　櫻は丁寧に説明し……アニエスは、やっぱりよく分からないところもあったけれど、この早起きで親切な先輩に感謝した。

　学生支援部部長の浅山小淋も、授業で使っていたノートを読み返していた。
　支援部では、部員を交えて勉強会もした。落ち着いて取り組めば平均より上には取れるはず。
　ちらりと他のメンバーを見て、ちょっと肩の力を抜く。
（……今は自分の方に集中しないと）
　暑さ対策は何もしてきてなかったけれどせめて、と、長い髪をリボンでひとつに束ねる。
　それから小淋は、自分自身に言い聞かせるように、ノートに一言、決意を書いた。
『１学期の成果を存分に出せるよう頑張ります』
　みんなも、上手くいきますように。

　テストの束を抱えて桐島義弘先生と吉田熊吉先生が入ってくる。
　教科書やノートを仕舞う、一瞬のざわめき。それから姿勢を正して。
　――と、ここで桐島先生から残念なお知らせがあった。

「あー、よく聞いてくれ。冷房が故障した。辛いだろうが、耐えてくれ」

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