【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線

●２日目：美術その２

　後方の講堂全体を見渡せる席で、傍観者旅鴉月詠は、手足をじたばたさせながらクマ先生の小脇に抱えられてゆく実々の姿をスケッチした。
（この時間でなければ描けないものを描こうと思っていたが、まさかこんなものを描くことになろうとはな）
　いつも冷静な月詠もさすがに愉快になって、くすり、と笑みをこぼす。
　テストはすでに解き終え見直し済みだ。
（日頃ちゃんと授業受けていれば、さして難しいという程でもないな。習った事を基礎に書くだけだ）
　と、なんとも月詠らしいマイペースさですらすらと解き、余った時間は絵を描こうと決めていたのだ。
　何を？　皆が講堂に集まり、机に向かっているまさにこの時を。
　何処に？　テスト裏の余白に、だ。
　テスト中の後ろ姿なんて一様でつまらないと思うかもしれない。けれど月詠にとって、彼らはひとりひとりみんな違っていて面白かった。もっとも、絵の中の静寂な空間に動きをつけるのは、頭をかいたり寝たような感じの者や、巡回している桐島先生程度かと思っていたが。
（おっと）
　噂をすれば先生が巡回してきた。見咎められては面倒だ。月詠は用紙を表に返してやりすごす。頬杖をついて先生が過ぎるのを待っていると、妙に落ち着かない様子のクラスメイトが目に入った。
（――おや、あれは？）
　その背凭れには、きちんと白衣が掛けられていて。
（伊賀じゃないか。なにをしているんだ？）

　伊賀解理はいらいらと身を捩っていた。ミミューサの効果が切れたワカメ先輩が、また局地的微震を発生させはじめたからだ。挙句にののこも太陽も色々とやかましい。
　だがしかし！
（僕は負けんぞ。今回は『彼』とテストの点数で勝負してるんだ……僕が勝ったらなにか奢ってもらおうと思ってるからな！　負けられん！）
　解理が頑張るのには、こんなわけがあったのだ。
（……べ、別にデートとかそういうんじゃないからな！　ほ、ホントだからな！）
　解理は『彼』の顔を思い浮かべると、今度は恥じらいで身悶える。
　と、その途端！
　ヴヴン……と両手がごく淡く光を持ちはじめたではないか！
（え、ちょ、まっ！　まさか、こんなところで！）
　＜代理告白＞。解理のビームのろっこんが発動しそうになっている！　
（うっわ、まてまて！）
　一気にビームが放たれてしまわないのは、ここに『ひと』がたくさんいるからかもしれない。
（静まれ僕の両手……！）
　１４歳ごろに発症するという病をこじらせたかのようなことを念じながら、解理は大慌てで、両手をスパッツに包まれた両太ももの間に挟んで隠した。
（な、何か違うことを考えなくては……ええと、ひとよひとよにひとみごろ……）

　月詠はそんな解理の動揺を絵の中に描き加えて、時計を見た。
　あと３分。
　さっと見直しをし、ついでに問題やレイアウトを検める。
（泉先生らしいな。書体の選び方が秀逸だし、配置もシンプルだが洗練されている）
　もちろんテスト裏の絵を消すつもりなんてない。遊び心の分かる泉先生の計らいで、後日その絵にも花丸がついて返ってくることになるのだが、月詠はまだそのことを知らない。