ねばねばギブアップ！？｜リアクション

ねばねばギブアップ！？

●彼らはいかにして納豆の糸を切ったか

「納豆蜘蛛を捕まえて納豆から隔離しよう」
　加速した刀から見る世界は相対的にゆっくりだ。
　糸を出している蜘蛛の場所は簡単に特定できた。
「昼休みが終わるまでに事態を収拾しないとご飯が食べられない、何としても終わらせる！」
　糸を躱しながら蜘蛛に近づいていく……つもりだった。
　しかし２匹の蜘蛛が張った巣の糸は複雑に交差し、人が抜けられる隙は……
「くっ……！　竹刀があれば！」
　刀は行く手を糸に遮られて、くっついてしまった！
「今度こそー！　あっ！」
　かなえが投げた二つ目の豆腐からすんでのところで身をかわす刀。
　かなえのろっこん『とうふの角に頭ぶつけて死なす』は豆腐の角を頭に当てれば気絶させることができるのだが、蜘蛛の頭は体全体に対して小さい。

「さあこのまま蜘蛛にこのテーブルを……ん、あれは……雨崎くん？！」
　怒りに我を忘れ蜘蛛に近づいた米太郎だったが、蜘蛛に囚われている知人を見つけ、冷静さを取り戻した。
「このままテーブル投げたらぐるぐる巻きの人たちは避けられない……うかつに近づけば捕まっちゃうし、どうじたらいいんだ？」
　しかたなくテーブルを下ろすと、焦げるような匂いが鼻についた。
　斗南が手の平から上がった炎を、蜘蛛の巣に着火しようとしている！
「わあっ、だ、ダメだよ！　火事になっちゃう！」
　止めようと慌てて駆け寄る米太郎。
　面白がっていた寧々も、さすがに炊事場から出てくる。
「やめとくれ、それ以上火が出ると……！」
　寧々の手が斗南の肩を掴んだ。

「お腹空いたなぁ……今日は納豆デーなのかな？」
　藤原春樹は、肩に黒猫の『佐藤さん』を乗せてのんびり学食を訪れた。
　中の様子を一目見てつぶやく。
「……阿鼻叫喚、ってやつかなぁ？　ねぇ佐藤さん、これってどういう状況だと思う？」
　巨大な蜘蛛と、ぐるぐる巻きになった二人、さらにそこに火をつけようとする者やら豆腐を投げている者。
「にゃー」
「うんうん、やっぱちょっと分からないよね？
　俺はメロンパン持ってるから最悪買わなくてもいいんだけど……これって、蜘蛛に襲われてる人を助けた方がいいのかなぁ？
　うーん、どう思う佐藤さん？」
「にゃー」
「そっか、やっぱり助けた方がいいよね。まぁ、ちょっと行ってくるね。
　佐藤さんはここで待ってて」
　肩の黒猫を廊下に降ろし、春樹は美咲紀のほうへ向かった。
　武器として掃除用具入れから箒を持ってきた真央も、修の元へ戻っていく。
「とは言ったものの、これって元は多分納豆なんだよね？
　食べものを粗末にしていいのかなぁ……それに結構丈夫そうな糸だね」
　迷う春樹の横で、修は蜘蛛の巣の縦糸を醤油を付けた箸で取って切っていた。
「確かに納豆の糸だ。納豆の糸は塩分や水分で切れるぞ」
「お味噌汁を掛けたら糸が切れるって噂だけど、お味噌汁も勿体無いしね……」
　春樹がのんびりと考えこむ。
「後木、調理場から清掃用のホースを借りて水を出そう！」
「わかったのだ！」
　修の指示で真央が再び調理場へ走り出す。
「納豆の糸はポリグルタミン酸のせいで束ねると切れやすくなるんだ。
　その箒貸して。糸を絡ませ束ねたら切れやすくなるよね」
　春樹はのんびりと言い、箒を構える。
　聞いていた修の目に、なかなかわかっているな、という感心の色が浮かぶ。
「修ちゃん、ホース借りてきたのだ！　今水出すのだ！」
　真央から渡されたホースを、修は機関銃のように構える。
「椿、今助けるぞ」
　ホースの先を潰して威力を上げ、撃つ！
　美咲紀を捕らえていた糸が切れ、無事解放された。

　プシャアーーーー！
　斗南の炎に反応した天井のスプリンクラーから一斉に水が噴出した。
「次は攻撃だ」
　修が構えたホースの水は蜘蛛本体を狙い撃った！
「スプリンクラーの水でいい具合に糸が切れやすくなってるね。せーの【ショートカット】！」
　春樹が箒を振り回して、糸を巻き取りつつろっこんを発動させる。
　巻き取りに必要な時間が瞬時にショートカットされ、宙に張った糸はあらかた綺麗に片付いた。
　そして春樹は椅子にもたれあくびをした。
「蜘蛛を叩こうと思ったけど……眠い。おやすみなさい」
　そのまま眠ってしまう。
　春樹のろっこん『切取点閃(ショート・カット)』は、物事の過程を省略するが、省略した時間分の睡眠が必要なのだ。

　修のホースはさらに荒太郎や刀を捕えていた糸を狙い撃つ。
「助かった～」
　無事解放される荒太郎と刀。
「捕まえたぞ！」
　糸から自由になった刀は納豆蜘蛛を押えこみ、納豆からの隔離に成功した。

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ねばねばギブアップ！？

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