ねばねばギブアップ！？｜リアクション

ねばねばギブアップ！？

●本日納豆デー！

　その日、雨崎荒太郎は、西野町かなえと共に学食を訪れた。
「今日はお弁当作れなかったんや、ごめんな」
「ううん、毎日は大変だよねー。たまには学食もいいよ」
　普段はかなえが荒太郎の分も一緒にお弁当を作ってくれている。
「そうやね、たまには……ん？」
　幸せそうなかなえの表情が、次の瞬間固まった。
「うぅ……臭い、臭いでー。なんやこの匂い？」
　日本人ならきっと一度は嗅いだことのある独特の匂い。
　しかしそれに対する反応は、人によって二極化する……
「な、納豆！　こーたろーくんは大丈夫？」
「今日の学食は納豆フィーバーだってー？　やったねー！　あれ、どうかしたの？」
　荒太郎は相変わらず幸せそうだが、かなえは表情を硬くしたままだ。
「な、納豆好きなんや……そっか」
「え？　納豆きらいだったのー？　とうふちゃんは納豆ダメかぁ。関西の子は納豆ニガテっていうの聞いたことあるなぁ……ぼくは納豆は割と好きなほうかな～」
「い、息止めてなるべく臭いをすわないようにしよ」
　サンマさんランチの食券を買って、学食のおばちゃんこと北野寧々に食券を渡す。
（……お、おばちゃん納豆はいらへんよ！）
　しかし息を止めているので声が出せない。
　目で訴えて、必死におばちゃんに納豆を返そうとするが。
「ラブラブなお二人さんには納豆がぴったりだよ」
　強引に渡されてしまった。
（な、なんでラブラブと納豆が関係あるん？　も、もう息が限界や！　はやく、はやく窓際の席にぃ！）
　しかし、人の波に阻まれ、かなえは学食中央で限界を迎えた。
「ぷはっ」
　口だけで息をしようと開いたけれど、やっぱり鼻からも納豆の臭いを一杯吸い込んでしまう。
「うぅ臭い、臭いよぅ～。あ、こーたろーくん……やっぱりこーたろーくんも納豆やー！」
　追いかけてきた荒太郎のトレイの上を見たかなえが涙目になる。
「Σ って、何それだけで後ずさりするー？　体に良いんだよー？
　あと、作ってくれたお百姓さんに申し訳ないじゃないー……」
　なんとか説得を試みる荒太郎だが。
「こーたろーくんの勧めでも納豆なんて食べないで。大豆は豆腐になってればええんやー！！」
　豆腐屋の娘であるかなえが叫ぶ。
「うんー、それじゃ　食べられるようにしてあげるねー！　一口食べられれば残りの納豆を全部たべてあげるから」
　にっこりした荒太郎は、かなえのトレイの納豆を取り、おばちゃんの元へ戻っていく。
「よし！　納豆には大根おろし。大根おろしをかければねばり気も中和されてするする食べれるはず～♪」
　と思った荒太郎だったが、はたと思い至る。
「あ……普通の食堂に大根おろしなんてないよね？」
「はいよ、納豆掛け大根おろし一丁！」
　その言葉を聞くなり、寧々が荒太郎のトレイに小鉢を載せた。
　納豆がたっぷりかかった大根おろし。
「あ、えーと……とりあえず食堂のおばちゃん、マヨネーズある？　借りまーす」
　増えた納豆メニューを断れないまま、マヨネーズを借りる荒太郎であった。

　
　天井から下がってくる小さな茶色い粒には、まだ誰も気付いていない……

このページにイラストを設定する