ある一夜の夢噺｜リアクション

ある一夜の夢噺

　黄色の夢飴を口にした桃川圭花は、ふわーっと、エノコロ岬にある灯台の上へと移動した。
　風の気持ちが良い夜だ。
　窮屈に感じてしまい、ヘアゴムを外して髪を風に晒す。

（……で、夜光虫、夜光虫……）

　この場所に移動した圭花の目的は、夜光虫。
　夜光虫とは、海のプランクトンの一種だ。
　夜間、波間に青白く発光する。
　目を凝らして、夜光虫が見えないかと波間を探す。
　ゆらゆらと波に揺られて青白い光が見えた。
　１つや２つではない。
　いくつも光っている。

「……っ」

　思わず圭花は声を出しかけて、口を押さえる。
　ずっと海のない町に住んでいたから、生で見るのは初めてだ。
　綺麗だと、圭花は無言のまま見入っていた。

　夜光虫をぼんやりと眺めているうちに、それにしても、と疑問が湧く。
　ここは夢の中の世界だけれど、こうして夜光虫が見られたのは本当に偶然の結果なのだろうか。
　圭花自身が見たいと望んだから見られたのでは……と思ってしまう。

（試してみるしかないわね）

　圭花は心にイメージする。
　最初は水面を跳ねる小さな魚の群れを。
　イメージそのまま、小さな魚の群れが現れた。
　ならば次は、鯨を。
　鯨もまた、イメージの通りに現れる。

（いいわよね、鯨って）

　海は大きく、行ける場所が何処へでも広がっている。
　身体も大きくて、誰にも邪魔をされない。
　圭花は自分を振り返る。

（私は……自分勝手に振る舞ってみせてるけど、本当は自由じゃない）

　友達に見限られたりするかと思うとすごく怖くて、そうしなきゃいけないだけだから。