ある一夜の夢噺｜リアクション

ある一夜の夢噺

　真辺伸幸は、夢の中で目を醒ました。
　それがとても不思議な気分だと思いながら、ふわふわと覚醒しきらない頭で、ゆっくりと手を動かす。
　手元には真っ白なスケッチブック。
　それを風に遊ばせ、目を瞑る。

（風の吹くままー気の向くままーってねえ）

　ふわりと笑って空を見上げれば、星の海。
　鯨だって泳いでいそうだと、伸幸は思った。
　そして何処か何時もより覚束ない足取りで、夜道を１人で散歩する。
　何時もは誰かが居るはずの場所に、今は誰も居ない。
　たったそれだけで。
　たったそれだけのことなのに。
　静かな静かなこの街は、ひっそりと夜空の海に沈んで街ごと眠ってしまっているよう。

『不思議だねえ』

　誰に言うでもなく、スケッチブックに書き込む。

『みんながみんな。おやすみなさい』

　声は出さずに呟く「おやすみなさい」の言葉。
　それは「おはよう」で起きる意志のある魔法の言葉だ。

　ふわわと自分の足で散歩して到着したのは、校舎裏だった。
　目指すは何時も自分が昼寝しているお気に入りの場所。
　ゆっくりと手で草をかき分けて、出てきたのは青い夢飴。
　まるで今の夜空を溶かし込んだような色。

『綺麗だねえ』

　青い飴玉と空を見比べて、伸幸はふわふわと笑う。

『もし、』

　もしも持って帰れるなら。
　大切な友人に見せてあげたいなあ、なんて、思ってしまうような綺麗な青。

「ふあ……」

　声を出さないように、小さな欠伸をひとつ。
　とりあえず今は眠いから、この夢飴を抱いたまま、しばし夢の中の夢を見よう。

『おやすみなさいー……なのよー……』