【Ｂ１テナント内：PM1:00】

　最後に残ったテナント内では、一人元気な声が外へと漏れていた。
「うぉー、すげー！ アレって本物だよね？ いおり初めて見た！」
　やや興奮気味に、野坂 庵が同じようにここに逃げてきた三人へと口にする。
「駄目だよ、いおりちゃん。あれは怖いものなんだから」
　庵を嗜める形で、小山内 海は自らの声で声を掛け、その隣に立つ。
「そうそう、海美ちゃんもちゃんと分かってますよねー？」
「……う、うん」
　同じくこの場所に逃げてきた二人の内の一人である屋敷野 梢が小島 海美に声を掛けるが、そこにいつもの元気な海美の姿は無い。
「ありゃ、海美ちゃんは怖かったですかー。大丈夫ですよー、お姉ちゃんが着いてますから」
　どこか心配そうに、重そうにケースを抱える海美に対し、梢は安心させるように優しく声を掛ける。
「ありがとう、こずえちゃん」
　梢の言葉に、少しだけ安堵するように海美が笑顔を見せる。
　現在、四人はテナント中央に全員が集まっている。
　それは、誰かが余計な行動をしない為にも、何より互いの監視をする為の措置であった。
「それで、どちらの提案でやりましょーか？」
　小学生二人が有る程度落ち着きを取り戻したところで、梢が話を切り出す。
　――元より、海と梢は事前に一つの提案を行っていた。
　海は全員が一斉にケースを開けて中を見せる事。
　反対に、梢は初めにケースの中を開示した人物が確認者となり、その確認者が指名した上で他の人物のケースの中身を見る、と言ったものであった。
「わたしはこずえちゃんいい！ みんなであけると、もしこわい人がいたら……」
　もじもじとしながら、ケースをしっかりと持ち、海美は梢の意見に賛同を返す。
「いおりはどっちでもいいぜ！ だって、裏切ってなんてないからね！」
　対して、庵は二人の意見へと同意する。
　これで二対一。多数決という点からすれば、採択されるのは梢の提案であった。
「……うん、わかった。なら、屋敷野さんのでやろう」
　自分の意見が通らなかったことに少しばかり気落ちするが、それでも中身を確認出来るのであれば問題ない。
　そして、海にとって必要なのは、それを自分で行う事であった。
「それじゃ――って、小山内さん？」
　若干ながらも、驚きの表情を浮かべ梢が海の行動を見る。
　――進んで引っ掛け錠を外し、全員に見せる形で蓋を開く海の姿を。
「これで、信用してくれるよね？」
「おー、海ねーちゃんは味方だな！ なら、いおりも見せるぜ！」
　飛びつくように、庵はケースを開けた海へと近づく。
　指名も何も無いが、それでも海にとっては、庵は確認したい一人であったのだ。
「……指名の必要はなさそうですねー。じゃ、お願いしますー」
　梢の言葉に一つだけ頷きを返し、海はそのまま受け取った庵のケースに手を掛ける。

　海がケースを確認している間、海美と梢の二人は静かにそれを見ているわけではなかった。
「道具を探したい？」
　海美に突然言われた一言に、梢が疑問を口にする。
「ケースはここにおいてくから、それでもだめ？」
　梢にとっては、海が庵のケースを確認している間、海美を見張る必要があった。
　但しそれはケースに対して何かをするか、もしくは持ったまま逃げるかの二択である。
　海美自らがケースから離れるつもりであるのなら――梢がそれを止める理由は無かった。
「分かりました。でも、順番になったらちゃんと戻るんですよー」

「うん！ だいじょうぶ、にげたりなんてしないよ！」

　賛同を得られ、ようやく元気を見せた海美に梢が笑みを返す。
　パタパタとテナントの端で何かを探し始める海美を確認した上で、梢は携帯を操作しつつ自身が持つケースに視線を向ける。
　――中身が怪しまれる分には都合がいい。
　このケースの中身を無事に外に持ち出す為にも、海には見せる必要があるだろうが、梢は他のマフィアには知らせるつもりはなかった。
「屋敷野さん、おわったよ」
　庵が持つ空のケースの確認を終え、海と庵がそのまま梢に近づく。
「その様子だと、庵ちゃんは問題無かったみたいですねー」
「当然！ 嘘なんてつくつもりないからね！」
　胸を張り、庵は梢に自信満々といった表情で口にする。
「なら、後は私か海美ちゃんですねー。小山内さんはどっちから確認したいですか？」
　放置された海美のケースを指さしつつ、梢は海に尋ねる。
「……そうだね。なら、うみみちゃんのからにしようかな」
　少しばかりの思案の後、海が指名したのは梢ではなく海美である。
　先ほどの海美の行動から考えれば、金を持っている可能性は低くは無いのだろう。
　――だが、海は初めからこの小学生二人のどちらかが裏切っていると考えていたのだ。
「そうですかー。海美ちゃん、順番ですよー！」
　離れた位置に居た海美に梢が声を掛け、海美はそれに元気よく答え三人の下へと戻る。
「わたしのばん？」
「だぜ！ ほらほら、早く開けちゃえよ！」
　全員が中央に集まった上で、急かすように庵が海美が置いたケースを軽々と持ち上げ、それを渡す。
　――その庵の動作を、海と梢は見逃してはいなかった。
「駄目！ いおりちゃん離れて！」
　とっさに海が庵へと叫ぶ。
　重いはずのケースを、庵は特に重そうに持つ事も無く海美に渡したのだ。
　――その嘘を、疑うなという方が難しい。
「ど、どういう事だよ、海ねーちゃん！」
　この時点で、海と庵の白は確定している。
　確定していないのは海美と梢、そして――海美はこのチャンスを待っていたのだ。
「え――」
　瞬間、海美に向けられた梢の視界が海美が投げたケースにより閉ざされる。
　突然の行動にあっけにとられた庵と、一瞬だけ視界の消えた梢は棒立ちの状態に。
　そして海は海美を警戒した為に近づいていない。
　このチャンスを、海美は逃すつもりはなかった。
「もうちょっと！」
　梢の行動の中で、海美が不審に思ったのはあくまで先ほど自身が持つケースに梢が視線を向けた事だけであり、確率的には低い。
　――それでも、やる価値はあると判断し、海美は出来た隙を逃すこと無く、梢が持つケースに手を伸ばすが、
「駄目ー！ 裏切ってたのはおまえかー！」
　唐突な衝撃と共に、海美は庵に抱きつかれる形で梢から距離を離される。
　この為、海美は梢のケースに触れられず、二人が室内にある扉付近側へと転がっていく。
「これって、やっぱり……！」
「そう、なりますねー……」
　床に落ちた際に引っ掛け錠が外れ、海美のケースの中身が散らばる。
　――転がるのは、小型拳銃とその弾丸。
　海は即座にそれらを蹴ることで遠くへ飛ばし、二人は庵に抑えられた海美へと走り出す。
「ってぇ！？」
　だが、それよりも早く庵から悲鳴があがる。
　抱きついていたはずの庵は、手のひらを押さえる形で海美から手を外してしまい、海美はその隙に扉を開き、そのまま外へと飛び出していた――

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【移動】
　小島 海美：Ｂ２→Ｂ３

【負傷判定】
　野坂 庵：ガラス片ニヨリ、右手ノ一部負傷

【全体情報ノ更新】
　・屋敷野 梢二ヨリ、一部プレイヤーヲ除キ

　　（小島ガヒットマンデアル、及ビ屋敷野・小山内・野坂ガ白デアル）

　　情報ヲプレイヤー二送信（更新時間PM1:09）

　・小山内 海ガ（御剣 刀）二情報ヲ送信（更新時間PM1:09）

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【Ｃ１→Ｃ２階段：PM1:08】

　マフィア達の騒ぎが階上で起こり始める中、立樹の姿は一階中央ホールに向かう階段にあった。
「どうにか、って所かな」
　一階へと足を着き、立樹は先ほど着信があったメールに目を通す。
　事前にトイレ内で幾つかの資材を集め、そこで情報を集めるつもりであったのだが、連絡があったのはつい先ほどであったのだ。
「夕鈴ちゃんからの連絡は無いけど……とりあえず二人にはこっちに合流するように送っておいたほうがいいね」
　着信があったのは、陽太と海美の二人のみ。
　翼からの連絡は今の時点ではなく、捕まったのか、それとも逃げ切れたのかは立樹には判断しきれない。
　その為に、立樹は翼への連絡をあえて取らず、逃げ切れた二人にのみ返信を行う。
「さて、後は上手く行ってくれる事を願うだけか」
　視線を階上へと移し、立樹は自分が行った仕掛けの一つを確認する。
　トイレで集めた空の洗剤ボトルやトイレットペーパー等を、一階から二階へと続く階段に散乱させたそれを。
　――もちろん、これ以外にもやるべき事はまだある。
　その為に、立樹は誰よりも早く着いた一階ホール内で動き始めていた。

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【移動判定】
　檜山 立樹：Ｃ１→Ｃ２

【全体情報ノ更新－PM1:04】
　登録外ノメールアドレスカラ一部プレイヤー除イタ全プレイヤー二

　・敵が恣意的に偽情報を流す場合がある
　・敵が判明次第、全員で連絡が好ましい
　・特定人物を孤立させる作戦に注意

　ノ情報ヲ送信
　　

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Round1 End

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▼次ラウンド開始地点▼　【Ａ１】八神 修　日暮 ねむる
　【Ａ２】夕鈴 翼（ヒットマン・気絶中）
　【Ａ３】日向 透　壬生 由貴奈　追分 義一　呉井 陽太（ヒットマン）
　【Ｂ１】御剣 刀　ジニー・劉
　【Ｂ２】小山内 海　屋敷野 梢　野坂 庵
　【Ｂ３】骨削 瓢　小島 海美（ヒットマン）
　【Ｃ２】檜山 立樹（ヒットマン）

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Next Round【PM1:10】