７月の雪あそび｜リアクション

７月の雪あそび

○木毎に花ぞ咲きにける

　八神修はねこったーで時ならぬ雪の話を知り、自家用車で旧市街を訪れた。
「雪降れば木毎に花ぞ咲きにける。いづれを梅と分きて折らまし……」
　風雅に和歌を口ずさむ。
　夏の木々に雪が帽子のように被り花のように見えるさまは日の光に美しい。
　紀友則もこんな気持ちだったのだろうか……
　ブーツで新雪を踏み、飼い猫の一匹である仔猫のブラックを下ろす。
　名前通り黒色の、勇敢で元気な子だ。
「ブラックは雪は初めてだったな」
　ふふ、と目を細めた修は、
「街の外で待っていてくれ」
　と運転手に言って、ブラックと共に散策を始めた。
　新聞部部長として、写真を撮るのも忘れない。
　まずは参道商店街を覗いてみることにした。

「煙草屋か。『檀屋』……？」
　店先でスコップを片づけている女性に声をかけた。
「すみません、お店は営業中ですか？」
　声をかけられた瑛華が答える。
「店は一応やってるよ。つってもこの雪だ、買物に来る物好きが居るかは知らんが」
　若いが女主人のようだ、と思いながら修は店先を見やる。
「江戸や明治時代などのアンティークな煙草用具がありましたら欲しいと思いまして。なければキザミ煙草でもいいんですが」
　瑛華はまじまじと修を見定める。
（背はさっきの子と同じくらいだし、落ち着いて見えるけど、やっぱり未成年だね？）
　金持ちそうではあるけれど、とも思う。
「明治から昭和初期ぐらい……まぁ煙管の類なら揃ってるし、煙草盆一式や叺なんかもあるけれど。
　それ以外にもいろいろと揃えているよ。煙草関係の品揃えなら寝子島一かもしれん。……まぁ自称だが」
　煙草の話となるとつい長くなってしまう。
「良い品物が欲しいのでアドバイスをいただけませんか」
「あいにくだが店に未成年の子を入れる訳にゃいかないね」
「俺が使うわけではないですよ」
　修は説明する。
「俺自身は煙草は嫌いなのですがあげたい人がいるもので……」
　父の日には遅いけどねえ……、と瑛華は考える。
「付き添いが必要なら成人の運転手を呼びますが」
「その付き添いとやらだけが店に入るなら問題無いけど」
「買いたいのは俺なので、それではちょっと」
　修は肩をすくめる。
「あんたを信用しないわけじゃないけど、未成年を入れないのはうちのルールなんだ。
　すまないね」
「わかりました。そういうことなら仕方ないですね」
「成人したらまた来て。もういいっていうくらいアンティークについて語るから」
　瑛華は店内へと戻っていった。

（子供扱いされてしまったな）
　苦笑した修だが、気持ちを切り替えることにした。
「もう少し散策してみるか」
　修はブラックを連れて商店街を離れた。