７月の雪あそび｜リアクション

７月の雪あそび

○雪の調査隊、出発

　旧市街のアパートで桜庭円は、窓の外の雪景色を見ながら考えていた。
　昨日の夜のあたりから雪がふっていた。
「まぁこういうのも楽しいけど」
（こうなると、神魂の影響だって考えちゃうのが、もう、日常になりつつあるわけでって……）
　ラジオやねこったーの情報では、どうも雪は旧市街だけに降っているようだ。
「にゃーくん、調べにいこっか」
「にゃー」
　飼い猫のにゃーくんに、押入れから引っ張り出した防寒具を着せてやる。
「にゃーくんにはマフラーと毛玉帽子とかどうかな？　あったかい？」
　にゃーくんは喉を鳴らし、円の肩に乗ってきた。
　今日は休日だし、どの程度の範囲に雪が広がっているかを地図に書き込んでいって調べてみよう。
　ゆっくりにゃーくんと遊びながら。
「お湯を水筒に入れてカリカリを持って、いざいかん」
　自分のスノーシューズと防寒着は、行き付けのスポーツ用品店から借りることにした。
「フットワークいいですね。スポーツ用品を冬物に切り替えるって」
　店先にならんだ冬物を見て、円は感心する。
「休日だし、少しは売れ残りをさばけるかと思ってね。出かけるんなら、うちで買えるって宣伝してもらえるかな」
「はーい」
　店の主人に頷いて、円は地図を手に調査へ向かった。
　方位四点か八点を探ってみるつもりだ。
「暑がりな子が何かやったとかなのかなー？」

　暇で暇でねこったーを見ていた弘明寺能美子は、投稿された写真を思わず二度見した。
「はあ！？」
《寝子島に雪にゃう》
　とのつぶやきにつけられた写真は確かに雪景色だ。
「なんなのよこれ。……いったい何なのかしら」
　星ヶ丘寮から見える景色はいつもと変わりない。
　だが、ねこったーでは数人が雪のことをつぶやいており、いたずらではなさそうだ。
　そういえばいつもと違って涼しい気もするが……
「ろっこんの力かしら、何か調べないと」
　頭を抱え、外に出るためにメイドに冬物を持ってくるように指示する。
　だがメイドが持って来た冬物を見て、能美子は再び頭を抱える。
「！　どうしよう、去年のシーズン物しか残ってないわ」
　普通夏のうちから次のシーズンの冬物は買わないから当たり前のことなのだが、ファッションにこだわりのある能美子にはゆゆしきことである。
　ファーの帽子、防寒コートの下に厚手のワンピース、そしてブーツといういで立ち。
　『女はいつでも足を見せるスカート派』なので寒いけど仕方がない。
（冬物って暗い色が多めであんまり買ってないのよね。はあ）
　車で送ってもらい旧市街に降り立つ。
（誰か知り合いは……あ、あれは）

　
「にゃーくん、これが雪だよー、初めて見るでしょ。
　触ってみる？　冷たいよ」
　にゃーくんとゆっくり遊びながら、円は雪の範囲を調べていた。
「わっ、にゃーくんが、雪の中に！」
　果敢に雪の中にダイブしたにゃーくんは、もぐったりジャンプしたり。
「まるで雪の中を泳いで……」
　飛び出してきたにゃーくんが、体ごと毛をブルブル震わせた。
「ってやっぱり寒いのかー。よしよし、ぎゅーってして暖めてあげよう。
　お湯飲むー？」
「……あら、桜庭さん。にゃー君も一緒なのね」
　そこへ、能美子が声をかけた。
（うう、前シーズンの服を着てダサいと思われてないかしら）
　なんて内心では思っているのだが、いつものように背筋を伸ばし表情には出さない。
「わぁ、能美子ちゃんだ、やっほー。お洒落だねーかっこいい」
　円はそんなことはまったく気にしていない。
「雪が降ったのは本当に旧市街だけみたいね。星ヶ丘も、シーサイドタウンも涼しいけどここまでではなかったわ」
　能美子の言葉に円が言う。
「おかしいよね。ちょっと雪の範囲を調べて、原因を探してみようと思うんだ」
「うーん……的外れかもしれないけど、雪が降ってほしいなんて思ってる人が旧市街にいてろっこんが発動したのかしら？　手伝うわ」
「能美子ちゃんと一緒なら調査が捗るし、もっと楽しいね」
　

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