７月の雪あそび｜リアクション

７月の雪あそび

○雪道は不憫のステージ？

「朝起きて寒いと思ってたら……何で七月なのに雪が積もってるんですかー？」
　塔ヶ崎璃亜は窓の外を信じられない思いで見つめた。
　確かに暑いのは苦手だけれど、いくらなんでもこれは……
「どうしましょう。これからバイトがあるのに……冬服は……でも出してたらアルバイトに間に合わなくなっちゃう」
　璃亜は天涯孤独の身だ。
　両親の貯蓄を切り崩しながら学費と生活費の足しにすべく幾つものバイトを掛け持ちし、放課後の殆どをバイトに費やしている。
　今日も旧市街でバイトがあるのだ。
「このバイトのお金が入らないと今月の支払いが厳しくなっちゃう……」
　選択の余地などない。
　暑がりなのが仇になり半袖と短いスカートしかないが、覚悟を決めて夏服のまま外にでるしかない。
　
「うう、やっぱり寒い……」
　鳥肌の立つ両腕を押え、震えながら歩く。
　もちろん冬用の靴など出す余裕もなかった。
　人が歩いて固まった雪道は、凍ったり融けかけたりしている。
　つるっと足を滑らせた璃亜は、そのまま転んで冷たい雪に尻餅をついた。
「きゃっ！　痛たた……」
　恥ずかしさで慌てて立ち上がるが、お尻と手が冷たい……
「うう、もう帰りたいです……」
　涙目になりながらも今月の支払いを思い浮かべては、震える身体に鞭を打って突き進む。
「誰も雪かきしてないんでしょうか……」
　角を曲がれば積ったままの雪道、新雪は綺麗だがそこを越えていくとなると見とれる余裕もない。
　ずぼっ、ずぼっ。
　雪の中に足を踏み入れて歩くのは見かけ以上に大変だ。
　雪道に靴が埋まり、融けて靴下にしみ込んだ水が足をじんじんと冷やしていく。
「しもやけになりそう……」
　このままバイト先について仕事になるのだろうか。
　しかし今更後には引けない、戻るなら今までと同じだけの苦労をして雪道を引き返すことになるのだ。
「バイト先に、つきさえすれば……」
　どれだけ歩いたのか、璃亜はもうあんなに気になっていた支払いのことすら頭から消えかけていた。
　ただ、この雪道さえ越えれば……

　商店街が見えてきた。やっと雪のない道を歩ける。
「あれ？　塔ヶ崎じゃないか？」
　雪かきをする制服姿の男子は同じクラスの刀だった。
「寒そうだな、大丈夫か？」
　歯の根が合わない状態で足を踏み出しながら返事をしようとした璃亜だったが。
　つるっ。
　一瞬のことに、雪をかいたスコップを持っていた刀は反応が遅れた。
　再び思い切り転んで尻餅をつく璃亜。
「大丈夫か？　気をつけて……いや、何も見えなかった」
　ぎこちない否定をしながら刀は目をそらし。
　この雪だというのに結構周りには人がいて。
　寒さで赤らんだ璃亜の頬がさらに真っ赤になった。
「だ、大丈夫です……」
　急いでその場から逃げ出したかったが、また転びそうになって。
　足元を踏み締めながら、ゆっくり、ゆっくりと歩く。
　やっとの思いでたどり着いたバイト先の店には、『本日雪のため臨時休業』の札がかかっていた……　

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