７月の雪あそび｜リアクション

７月の雪あそび

◯志田は喜び庭滑り回り、鳴は心を躍らせる

　旧市街のアパートに住む仲村渠鳴は、目を覚まして寒さに震えた。
「さっ、寒い……何これ！
　こんなに寒いの初めてだわ……今、夏でしょ！？」
　沖縄出身の鳴は、確かに島に来た当初は寒さを感じたものだが。
「いくら関東だからってこんなことあるの？」
　外を見て鳴は目を疑った。
「一面真っ白……こんな光景初めて見た。……これは、夢？」
　テレビや本の中でしか見たことがなかった雪景色がそこに広がっていた。
「寒いけど……寒いのはすっごく苦手だけど」
　この光景に胸が高鳴るのも確かだ。
（雪に直に触れてみたいな）
　スパイスをしっかりかけた朝食を済ませ、可能な限りの厚着をして外に出た。
　さく、さく。
　初めての雪の感触。
　日差しを浴びて輝く眩い雪に見とれ、雪の作る影の青さに目を見張る。
「なんだかわくわくするなぁ。
　雪だるまとか作れるのかな……かまくらとか雪像とか作るのは……さすがに無理かしら」
　もちろん雪遊びなんて初めてだからやり方なんてわかんない、誰かに聞くしかない。
「公園とかに行けば誰か遊んでるかな。同じ高校の人に会えたら嬉しいかも」
　
　
　志田朝陽は、今日も日課のランニングで旧市街に差し掛かった。
　寝子高のジャージ姿である。
「うわわっ！？　噂通りに夏なのに雪降ってるじゃん！　すっげー！　異常気“ぞう”か何かか？」
　気象の読み方が間違っているようだ。
「ここらへんだけ急に冬になったみてーだな。……なんだかウズウズしてきた……遊びてぇ……！」
　朝陽は公園脇の坂に目を止めた。
「……あ、そうだ！」
　そばに落ちていたダンボールやクッションに目を留める。
「このビニール袋の中に中にダンボールやクッション詰めて……」
「何してるの？」
　そこへやってきた鳴が声をかけた。
「うっし！　即席ソリの完成だ！」
「ソリ？　すごい、作れるんだ？」
「へへ、簡単だろ？　あぁ、俺が考えたんじゃなくて幼馴染が教えてくれたんだよ。
　あそこの坂とか滑ったら楽しいと思うんだよなー。
　せっかくの雪だしお前も滑ってみようぜ！」
「うん！」
　鳴も即席のソリを作り、朝陽に続いて坂の上に登った。
「それっ！」
　ソリを掴み跨って、勢いよく滑り下りる朝陽。
　とても楽しそうな無邪気な笑顔だ。
　うまくできるか不安だったけど、鳴も思い切って後に続いた。
「……！　すごい、すごく滑る！」
　ソリはあっという間に下に滑り下り、鳴は勢い余って横に倒れた。
「冷たい！　雪に触れるとホントに冷たいんだ」
　柔らかさも、手の中で急速に融けていく儚さも初めて知った。
　これが、雪なんだ……
「なんだ、雪初めてなのか？」
　再び坂を上る途中の朝陽が声をかける。
「うん、あたし沖縄出身なの」
「マジか！　すげえな」
「そう？　……えーっと、あなたは雪に慣れてるみたいね」
「ああ……まあ慣れてるってほどじゃないけどな。それじゃせっかくのチャンスだし、もっと滑ろうぜ！」　
　ヘクシッ！　っとといけねぇいけねぇ。ケータイ落としちまった」
　朝陽は慌てて雪の上からケータイを拾い上げた。
「……そういや、雪降ってんの教えてくれたのも、ソリ遊びを教えたのもあの幼馴染なんだよなぁ……」
『旧市街、雪降ってるよ！』
　という今日のメールは、無視してしまった２５通目。
　トラウマになるほどひどい目にあったとはいえ、さすがに悪い気がする。
（嫌なら嫌って言わねぇと、縁切るなら切らねぇとダメだよなぁ……）
「幼馴染？　いいね、あたしは沖縄の友達と会えるのはいつになるか……」
　朝陽の葛藤を知らず鳴は明るく言った。
（あいつに会うのは、何されるかわかんねーから正直嫌だけど、いつまでもこのままで居るわけには行かねぇし……）
「あーもー引きずるなんて俺らしくねーな！　アイツともいっちょケリつけるか……！」
　
　