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柚春は何も訊かずに、持ってきたトレーを机に置いた。
「エルダーフラワーのコーディアル。僕が摘んだ花で、メアリさんが作ってくれたんだ。それにケーキね」
「ああ、いいねぇ」
ウォルターが上の空であることは、口調や表情がなくたってわかった。
窓辺の椅子に並んで腰掛ける。冷たいグラスをかたむけると、ウォルターはわずかに目を細めた。
「獅子堂さんのこと、思い出してたの?」
ずばりと言ってみる。ウォルターは一瞬だけ目をまたたいたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「さぁ、どうだろうねぇ」
「そういえば、もうじきお彼岸だね」
「あ、そっか。うん、そうだねぇ」
「また獅子堂さんに会えたら、どうする?」
「うーん、どうだろうなぁ」
「今年のお盆はどこに帰ってくるだろうね」
「さぁねぇ。僕にはわからないなぁ」
答えたくないのだろうか、それとも本当に想像もつかないのだろうか。
踏み込みすぎたかと思いつつ、柚春はもう一歩だけ進んでみる。
「もうワットのこと心配してないかもしれないし。……気になって、様子見に来るかもしれないよ」
はは、とウォルターは笑った。
「気になって、か。僕は頼りないからね。彼の期待するような大人になれたかというと、自信がない」
「そんなこと」
「あるよ。僕は、矛盾した存在だから。平気な顔して嘘をつくし、昨日した約束だって、今日にはもう反故にしてしまう」
ケーキを少し口に運んで、ウォルターはつづける。
「"Liar today, thief tomorrow."──ええと、日本語では『嘘つきは泥棒のはじまり』って言うだろう? これじゃ警官には向かないよ。もしかしたら僕の誠実さというものは、彼を喪ったときになくなってしまったのかもしれないな」
「やめてよ、そんなこと言うのは。まるで──」
と言ったきり柚春は口ごもった。
まるで、七夕の夜に僕を置いて、『誰か』に会いに行ったことを弁明しているみたいだから。
柚春の沈黙をどう受け取ったのか、ウォルターはため息をついて首を振った。言葉こそないものの、あまり掘り返してほしくない、という意識だけははっきりと伝わってくる。
柚春はそれ以上訊くのをやめた。かわりに、思い切って口を開いた。
「もし、なんて言っても仕方ないかもしれないけど」
「うん?」
「僕はもし、獅子堂さんにまた会えたら、好きな人だって言いたいな。ワットのことを」
声がかすかに震えた。けれど返ってきたのは、淡い反応にすぎなかった。
「……そっかぁ」
それだけだった。表情も変わらない。
拍子抜けしたのを誤魔化すように、柚春はことさら明るい声を出す。
「さて! 僕の仕事はもうじき終わりだけど、ワットのお手伝いは必要かな? この後、夕飯の買い出しデートにも付き合ってくれるって言ったよね。何食べたいか考えてくれた?」
「悪いけど」
ウォルターの声から、間延びした響きが消えていた。
「今日はもうそんな気分じゃないんだ。帰ってくれないか」
柚春の笑顔が固まる。
「僕のこと、大切に思ってないの?」
「そんな質問には慣れてないんだよ」
静かな声だった。怒っているわけでも、突き放しているわけでもない。ただ、不意を突かれて、うまく取り繕えていないだけなのだと柚春には思えた。
何か言おうと開きかけた口を、柚春は閉じる。うなずくことしかできなかった。
トレーを片付ける気力もなく、そのままにして部屋を後にした。振り返ったが、玄関まで見送りに出てくる気配もない。
外に出ると太陽が見えない。いつの間にか雲が、重く垂れ込めているのだった。
さっきまであんなに暑かったのに。
屋敷を出て坂を下りはじめたところで、ぽつり、ぽつりと雨粒が地面を打ちはじめた。
「傘ならあるから」
誰に言うでもなくつぶやいて、鞄から折りたたみ傘を取り出す。
開こうとして、手が止まった。
──これ、ただの日傘だから、雨のときには使えないんだった。
開いたところで、すぐに重たく濡れそぼるだけだろう。
戻って傘を借りるべきなのかもしれない。けれど、戻る気にはどうしてもなれなかった。
柚春は傘を閉じたまま鞄にしまい、歩き出す。
雨脚は次第に強くなり、髪も肩も濡れていく。ぬるい雨が肌を伝う感覚さえ、いまは気にならなかった。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年08月08日
参加申し込みの期限
2026年08月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年08月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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