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息を切らして結果を待つ。待つが、もう結果は想像できている。
いいタイムではないだろう。
スタートの踏み切りが甘かった、腕がどこか重かった、脚の回転が鈍かった──さまざまな理由が浮かんでは消えるが、本当の理由はわかっている。
無心になれなかった。
陸上部の合宿も終盤に入っていた。今日に限っても、百メートルを何本走ったかわからない。本来の自分なら本数を重ねるごとに体がほぐれてくるはずだ。なのに、走るたびに何かが噛み合わない感覚が、身体からずっと抜けずにいる。
「中倉どうした?」
コーチが怪訝な顔をした。彼の眉間の皺の深さから、
中倉 琉歌
は自己ベストからの遅れが、百分の一秒単位ではなく十分の一秒単位のものだと読み取った。
実際、その通りだった。ここ数日のワースト。
タイムを告げられ、琉歌は黙ってうなずいた。表情には出さない。コーチに心配をかけたくないというより、自分でもまだうまく整理がつかないのだ。
アップエリアの隅のベンチに腰を下ろして、タオルで首の汗を拭う。
変色した水筒を取り、ぬるくなったスポドリを一口した。
ああ。
インターハイ本大会まで、あと、数日。寝子高は今年も地区大会まで順当に勝ち上がっており、広島で行われる本大会への出場が決まっている。琉歌も、百メートル走者として出場予定だ。念願の大舞台、感慨を覚えないといえば嘘になる。しかし、
あの飄々としている中倉もさすがに大舞台では緊張するのか?
とでも思われているのだとすれば、そうじゃないと言いたい。
もどかしいけど、説明しようったって無理だよね。
夏の陽射しが重い。
グラウンドの向こうでは、他の部員たちがまだ練習を続けている。掛け声、足音、ホイッスルの音。自分もその一員のはずなのに、どこか遠くから眺めているような気がした。
合宿の数日前、練習帰りのことだ。
校門を出たところで琉歌は、
中参 優眞
(なかざん・ゆうま)に声をかけられた。帰路の途中、七夕で買った短冊アクセサリーの話になった。『ここに書き入れた願いは七十パーセントの確率でかなう!』という妙な(しかし逆説的に本当っぽい)キャッチコピーを添えて売られていたものだ。
短冊には何も書かなかったと琉歌は明かした。書けなかった、が真相だが、嘘を言っているわけではなかった。
対して優眞は、
「『中倉琉歌と付き合えますように』って書いた」
唐突に告白したのだ。
「俺、中倉のことが好きだから」
とも。
サプライズすぎるよ、中参君──。
強烈な記憶だった。いや、だった、と過去形ではなく現在にまで引きずっている。
これ、なんていうんだろう。
スポドリはやっぱりぬるい。それに、甘苦い。
まるでラブコメ、タイトルつけるなら『恋の股裂き』? 漫画の話だったなら、クスリと笑ってページをめくってたかもしれない。
でも主役はどうやら自分らしい。だとすると全然笑えない。
ぱっと振ることができればどれだけらくだろう。
私には、他に好きな人がいるから、と。
嘘じゃない。
どうしてもというのであれば、先輩の名前を明らかにしたっていい。
それから、優眞の前でペラペラとしゃべる自分を想像する。
「気の迷いだったんだよ中参君。風疹っていうの? はしかだっけ? あれね。ほら私って、中参君のタイプの女の子じゃないじゃない? 自分でどんどん先に進んでしまうようなマイペースな女。相手の懐にいきなりスッと入り込んで、距離感バグってるとまで言われちゃうようなキャラ。空気読まないタイプだし、出しゃばるし自分勝手だし、どう考えても中参君の好みではないよね~。なんか珍獣とか気になるのと同じ心境じゃなーい?」
欧米人か? というくらいの身振り手振りボディランゲッジオーイエーをまじえ、早口でまくしたてるところまで、ありありと思い描くことができた。
中参君はあきれてどこかに行ってしまうだろう。
これで、めでたく一件落着。
……の、はずなのだけれど。
「そこが好きなんだ」
って、言われたら……どうする……?
思い当たるところはある。
凛々花やユキを巻き込んでキャーキャー言っているときも、中参君は迷惑そうな顔をしない。すぐ「うるせぇなー」とか言う男子とはまったくちがう。むしろ、なんかまぶしそうな顔をしていたような気もする。
琉歌は遠目に優眞の姿を眺めた。四百メートル走者としてトラックを回っている。すでに後半に入っているから苦しいはずだ。なのに彼の目は凜として、むしろこの苦境を受け入れているかのように見えた。
自分の視線に気づくはずはないと思いながらも、琉歌は直視できず、優眞を視界の隅で見るようにする。
そもそも中参君が、私の嫌いなタイプだったら楽だったのに。
相手の怒りを買わずに、かわすことくらいはできるのだから。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年08月08日
参加申し込みの期限
2026年08月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年08月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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