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でもまだ問題は残っている。
気づかれず会話を聞くには、ここがおそらくベストポジションだろう。ふたりは窓向きのカウンター席に横並びで座っていて、こちらに背を向けている。パキラの葉の隙間から、滴のうなじと、紗櫻都が滴の方を向いたときの横顔がかろうじて見えた。死角からふたりを捉えている、という意味では完璧だ。我ながら、こういうときだけ冴えていると想花は思う。
しかし。
遠い。
物理的に遠い。盗み聞きをはかるには致命的に遠い。無音の室内ならいざしらず、カフェは適度に賑わっていて、周囲の話し声やBGMがブレンドされて、ふたりの会話は聞き取りにくい。
「タメなんだからさぁ。もっと普通に話してよ~」
滴の声だ。これは聞こえた。わりと大きい声だったから。でも、
「──なら──しま──」
紗櫻都の返答となるとまるでお手上げだ。声が小さい。
「だから~、そ──だめなんだってば~」
これは滴の声。また途切れる。
なんの話をしているんだ。想花は考えこんだ。少なくとも、深刻そうな気配はある。
ロロの口調がいつもより真剣で、滴さんがいつもより静かだ。
いや、滴さんはいつも静かか。でも、なんか、ちがうよね。
もう少し近づきたい。でも近づいたら見つかってしまうよ。
全身を耳にして、ふたりの声を拾おうとしたとき、
「アイスココアお待たせしましたー!」
ウェイターの顔が想花の視界に飛びこんできた。
「早っ!」
悲鳴みたいな声になってしまった。直後に硬直するが、滴と紗櫻都の様子に変化はうかがえない。
想花の眼光をくらってウェイターは小走りで消えた。
作戦続行だ。ふたたび全身デビルイヤーである。
「私は想花ちゃんのこと、ずっと前から知ってるんだよね~」
これに対し紗櫻都は何か口にしたようだが、つづいて聞こえた声も滴だった。
「んー、いろいろ?」
そしてまた滴。
「あの子ってさぁ、びびりなくせに、いざとなると頼りになるんだよね~」
ぼくの話題だろうね……。
いざとなると、のくだりは素直に賞賛として受け止めるべきなんだろうか。
だとしたら喜ぶべきことなのかもしれないが、ふたりが、共通の友人の話題で盛り上がっているとはどうしても思えなかった。やっぱり紗櫻都の反応は地味だ。
「──そう──ね──」
「キミもわかってるんだ~」
間延びした口調で滴が言う。それからしばらく、聞き取れない会話が続いた。
やがて滴の声が、また聞こえてきた。
「想花ちゃんはあげないよ~」
想花は危うくココアを吹き出しそうになった。
「……それとも、半分こにする?」
また滴だ。追い打ちをかけるかのように。冗談めかした口調なのに笑えない。全然笑えない。
紗櫻都の返答は聞こえなかった。
ところが一瞬、店内BGM(ビッグバンドジャズの演奏)の曲と曲の切れ目があったせいか。つづく滴の言葉は、真横で発されたかのようにはっきりと聞こえた。
「キミ、想花ちゃんのこと、好きでしょ?」
想花は息を呑んだ。
紗櫻都の返答は、聞こえなかった。でも、聞こえなくてもわかった。
「ふぅ~ん」
滴が言った。
「じゃあ聞くけどさぁ、キミ、想花ちゃんのために何ができるの?」
返答が、途切れ途切れにしか聞こえない。でも紗櫻都が、何かを懸命に答えようとしているのはわかった。
「スタイリスト~?」
滴の声が、ほんの少し鋭くなった気がした。
「なれると思ってる? いまのキミが」
静寂。
パキラの葉が、エアコンの風で揺れているのがわかった。
「わかってるでしょ? キミさ、想花ちゃんの足を引っ張ってるよね?」
ガタンと音が立った。紗櫻都が、勢いよくスツールから降りたのだ。
「わかってます!」
この日、はじめてはっきりと聞き取れた紗櫻都の声だった。
え……、あっ……?
紗櫻都が、お金を叩きつけるようにカウンターに置いた。
そのまま紗櫻都は、勢いよく店を出て行く。といっても、どこかギクシャクとした動きで。
ロロを追ったほうがいい!? でも、ここで飛び出したりしたら、きっと滴さんに見られてしまう。
ぼくは。
ぼくは……。
想花は両肘をテーブルにつき、頭を抱えた。
ぼくは動けない。動けないんだ。
いくじなしだから。
それとも本当は──。
この日を最後に、紗櫻都に送ったNYAINは既読すらつかなくなった。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年08月08日
参加申し込みの期限
2026年08月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年08月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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