＜高給＆メリット満載＞代理出席ウェディング｜リアクション

＜高給＆メリット満載＞代理出席ウェディング

[プログラム　８　余興の余興]

　全員の視線が宇品守に集まった。
「実は、隠していたことがあるんです」
　新郎側と新婦側で、違ったざわめきの色が沸き立つ。
「宇品さん、まさか……」
　梅戸有留が思わず腰を浮かす。旅鴉月詠も筆を止めて、ことの成り行きを見守る。八神修は、迫真の守を一枚ファインダーに収めると、最悪の事態を回避する最善の方法がないかを考える。最悪の事態——それは、守が記憶喪失者であることが明るみに出ることではない。それが火種になって、結婚が破綻してしまうことだ。
「実は、僕は……僕は……」
　招待席で、鷹峰嵐がひっそりと笑う。

「おーい守、余興はまだ終わってないぜ」
　守の対極から声。ライトが照らされると、片目を閉じた青年が立っている。
「あ、ご紹介が遅れました。守と同じ職場で働いている暗道忍です」
　ハッとする守。忍とは実際に以前、警備の仕事をしたことがある。代理出席メンバーの中では唯一、以前から面識のある間柄だった。だからといって結婚式に呼ぶほどの仲でもなかったわけだが。
「それでは俺から最後の余興です。こちらのスクリーンをご覧ください」
　壁にかかったスクリーンに手の平を差し向ける。浮かび上がった映像は、ロッカールームだった。守にとっては馴染み深い、寝子電スタジアム警備員専用の控え室だ。

『えーっと、守さん、真理さん、ご結婚おめでとうございます』
　警備員姿の若い男性。それは、守の正真正銘の、職場の同僚だった。サッカーボールを抱えている。
『今回は、えー……おばあちゃんの三回忌？　……があって、結婚式に行けなくてごめんなさい。でも２人の幸せを心から願っています。いつも守さんには助けてもらってばかりです。いつもは恥ずかしくて言えないけれど、この場を借りて言わせてください。ありがとうございます。サッカーボールにメッセージを書いたので、後で見てください。それじゃ！』
　彼がサッカーボールを画面右へと移動させると同時に画面が切り替わる。あたかもバトンのようにして、サッカーボールを受け取ったのは、守の上司にあたる人だった。さらにその次は利用しているスタジアム食堂のおばちゃん。サッカーボールを左から右へと回しながら、守の顔見知りが切れ目なく登場していく。
　さらにスタジアムフィールド。ユニフォーム姿のバンビーナ寝子島の選手もサッカーボールを手にする。
『ご結婚おめでとうございます。いつも宇品さんが警備をしてくれるから、私たちは安心してプレイできています。本当にありがとう、どうかお幸せに！』

　映像が終わると、忍がまたマイクを取る。
「守、これが皆からのメッセージだ」
　山なりにサッカーボールを放る。愕然と立ったままの守は反応が遅れるも、不器用にボールをキャッチ。
「今日参列した人たちだけじゃなく、これだけたくさんの人に応援されている守って、ほんと幸せだよな。しかもこんな可愛い奥さんまでもらっちゃってさ。ほんとうらやましいぞ」
　メッセージボールに書いてある字がぼやけて見えなくなるくらい、守の目には涙の池ができている。
「これからの人生、辛いこともあるかもしれないけど、そしたらそのボールを見て思い出すんだ。自分はたくさんの人に支えられて生きているんだって。だから頑張らないといけないんだって。な？」
　何度もうなずく守。その拍子に涙がぽろぽろとこぼれていく。周りからもすすり泣く声が聞こえてくる。

「ありがとう」
　ボールを大事に抱え、罪から解放された守ははっきりと言った。
「僕は……僕は……本当に幸せ者です」

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