「で、なんでミツバチなんだよ」
冷たいスポーツドリンクを一口して、龍目 豪は洋二に問う。
「その異世界探検? だかに行くにしたってだな」
とりあえず異世界については『そんなもの信じない』という体をとっておく。星幽塔のことを一般の人間に話して通じるとは思えないから。まあ、鷹取洋二が『一般の人間』の範疇に入るかどうかは大いに疑問だが。
「いやあ、部長の発案でねえ」
洋二はへらりと笑って首をすくめた。この言葉を引き取って、
「それはナ」
とオルガ・オングストロームが人差し指を立てた。
プラチナブロンドのロングヘアに青いリボン、サファイアブルーの瞳。小柄な体躯に似合わず存在感は抜群で、北欧の妖精がそのまま日本の大学に迷い込んできたよう。
「ミツバチはネ、昼行性デショ? でも満月の夜にだけ、巣箱から出てくる個体がときどきいるって話ナノ。これ、変だと思わない?」
オルガはいったん言葉を切って、豪の目をまっすぐ見上げた。
「蜜集めには不向きナ時間帯。でも彼らは出ていく。だったら……どこへ?」
「どこへって」
「オホー! あなたもホントはわかってるデショ? 別の場所に真昼があるとしたら? この世界の夜が、どこか別の世界では昼だとしたら?」
オルガは両手を広げ、青空を見上げる。
「満月の夜、ミツバチはその……なんていうの、ボーダーを越えて異世界へ、蜜集めに行ってるんじゃないかと私は思うノ」
言葉が詰まったのか、彼女は途中から英語に切り替えた。
「They cross the border into another world, just like, uh, portal hunters, you know?」
「ポータル……?」
「That's right! I mean, if we watch them carefully enough, maybe they’ll lead us right to the portal!」
オルガはつかつかと勢いよく豪に近づいてくる。
「だからここで夜通し観察するノ! 見つけるため、異世界への扉!」
そこで急に勢いがしぼみ、彼女はぼそっと付け足した。
「……Kanske」
「え、なんて?」
「スウェーデン語、『きっと見つかる』って意味ネ!」
そしてすぐまた顔を上げ、今度は三か国語をちゃんぽんにしながらしめくくった。
「But alright! Vi hittar den! 見つける! Gateway to 異世界!」
「ちゅーわけや」