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B408号室。教養棟の四階、いちばん奥の角部屋だ。
外国語や教養科目の講義が行われることもあるが、せいぜい週に数回、入り口から一番遠い端という不便な立地もあって、ほとんど使われることはない。それ以外の時間はもっぱら『多目的室』として生徒に解放されている。放課後を含め出入りは自由、自習や待ち合わせ、くだけた言い方をするなら「だべり場」として使われることもある。
最近、ラッセルはこの部屋がお気に入りだった。
芸術科の棟はキャンパスの反対側だし、明文化されているわけではないものの、あそこのアトリエには上級生しか使えない雰囲気がただよっている。その点この多目的室は、誰に気兼ねすることもなく使えた。窓が二面にあって光の入りが良く、午後は西日がやわらかく差し込んでくるのもいい。「ま、芸術科見習いって身分にはこれくらいがぴったりだろーし」なんて自嘲半分に思っているところもあるが、本音を言えばこの部屋の居心地は悪くなかった。
なにせ利用者が少ないのだ。ひとりで貸し切りになることだって少なくない。
今日みたいに。
週末の午後だからだろうか、入室時から誰の姿も見ていない。五十人は収容できそうなスペースを、ずっとラッセル一人で独占していた。
机を四つ並べて、画集と資料を広げている。画集を眺めて、模写でもしようと思っていた。校内のコンビニで買った珈琲は、B408に着くころにはずいぶんぬるくなっている。
スケッチブックにペンを走らせながら、ラッセルはあくびをした。
昨夜、あんまり眠れなかったなあ。そのうえ朝は早く目が覚めて……うん。
頬がとろんと緩んでくる。
いかんいかん、集中しなくては。
珈琲の紙カップに手を伸ばす。
目が覚めた。
「……えん?」
変な声が出る。
両肘が痛い。いつの間にか机に突っ伏して眠っていたらしい。猫みたいに体をのばすと、肩の関節がポキポキと音を立てた。
教室の空気は、冷えているというより停まっているようだった。エアコンの低い駆動音だけが、どこか遠くでかすかに鳴っている。
窓の外はまだ完全な黒ではない。けれど景色はまるで、薄いカーテン越しのよう。昼の名残はとっくに剥がれ落ちていて、空は薄く濁った群青色に沈んでいた。
広い教室にひとり、ぽつんと取り残されたような気がしてならなかった。
スケッチブックに目をやると、目標の半分も描けていない。線だってぶれぶれで、こういう表現スタイルもあるとは思うが、少なくともラッセルの好みではなかった。
げっ、と思った。壁時計を見上げてみれば、針は思ったより進んでいる。夕方の延長というより、もう夜の入口にさしかかっている時間帯だ。
やべー!
慌てて携帯を取り出す。「すまん遅くなる」と晴月に電話しようとしたのだが、スマホの画面はモノリスみたいに黒く沈黙したままだった。カチカチと側面ボタンを押すも同様だ。光が出ないだけで、こんなに物体としての存在感が消えるのか。
この部屋に入る直前、そろそろ充電、まずいなと頭に浮かんだことを思い出した。しかもこんなときに限って、モバイルバッテリーを家に置いてきている。『殻(がら)ケー』がもう使えないことが、こんなにこたえるとは。あれには充電なんて必要なかったから。
急いで帰らねーと。
晴月も子どもではないから、ラッセルがいないし連絡も取れないとしても慌てふためくことはないだろう。ただ、心配はしていると思う。
机の上のものを乱暴にリュックに突っ込み、転がるようにして廊下に飛び出した。
「あ」と「わ」の中間くらいの声が出た。
電気の消えた薄暗い廊下に、誰かいるとは思わなかったのだ。正面衝突こそなかったものの、危ういところだった。
「すいませっ」
語尾が、「ん?」になる。見知った顔だったから。背の高い女子だ。ラッセルだって低いわけではないが、拳ひとつ分は彼女が上だろう。
寝子高の卒業生だ。体育科の──名前なんだっけ。卓球がめちゃくちゃ強かった人。えーと。
「い、いえこっちが悪いんです。こんな夜逃げみたいな不審、いえ秘密行動をしてて……」
彼女のほうはやたらと恐縮している。
不審? 隠密?
困ってるっぽいが、悪だくみをしている感じでもない。
「あ、俺、桜井。寝子高で一緒だったよな? よければワケを──」
「僕から説明しよう」
ひょいと彼女の背後から男が出てきた。ひと抱えもあるようなクーラーボックスを下げている。彼の海藻類みたいな髪型に見覚えがあった。高校時代の有名人だ。
「鷹取先輩っすね!」
「ご存じだったとは嬉しいなあ。やあ、ワカメさんだよ」
ワカメって自分で言う!
やっぱこの人、すごい人だ。
洋二がすっと手を差し出してきたので、ラッセルも反射的に握手した。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
学校生活
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年05月06日
参加申し込みの期限
2026年05月13日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年05月13日 11時00分
参加キャラクター一覧
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