春探しの彩色マーチ｜リアクション

春探しの彩色マーチ

「あ、橘様」
　相変わらず荷物運びやら配膳の手伝いをしている敦志に、誘いを受けていたアネモネが声をかける。
「おー、アネモネ、今日は風紀の仕事か？」
「はい、お写真を」
「写真？　いいな、沢山撮ってくれよ」
　ええ、と頷いたアネモネの後ろから、
「あっちゃん先ぱ……じゃなくて！　敦志先輩じゃないですかー」
　にゅっと花見を終えてきた睡蓮が覗きこむ。
「おう、睡蓮じゃねぇか、何か食べるのか？」
「ここは一つ山菜料理を堪能したいですねぇ」
「なら、蕎麦はどうだろうか」
　お腹がへり食を求めてきた海仔が口を挟む。彼女は蕎麦に目がなく、それは睡蓮も同じだった。
　更に二人は蕎麦を食べに約束している仲でもあり。
「「山菜蕎麦で！」」
　重なる声で決定するのだった。
「了解。あ、そうだ。アネモネも食ってけよ」
「宜しいので？」
「ここはそういう場所だしな」
　敦志が悪戯に笑えば、アネモネも写真に夢中ですっかりお弁当を忘れていたことも思い出すのだ。
「では、お言葉に甘えて」
「蕎麦でいいか？」
「ええ、是非」
　睡蓮と海仔の座る席に迎え入れられ、アネモネも時を待つ。
　ずるずる、ずるずると幸せの音はすぐに響くだろう。
　近くには、手伝いを終えて山菜料理を堪能する佳奈がいて、その食いっぷりに見ていた人のお腹も鳴る程。
　――だって、あんなに美味しそうに食べるから。
「てめぇ、よく食べるな」
　その食べっぷりについ足を止めた瞬平が、ため息と一緒にそう零した。
「だっておいし～もん♪」
　呆れられたって美味しいものは美味しいから仕方ない！そんな素直過ぎる佳奈の態度に、
「……なら、食え」
　瞬平の手にあった料理だって差し出される。それはレストランに出されるような素敵な一品。
「なにそれ、美味しそう！」
「おぉ……」
　彼の料理はまた、沢山の注目を浴びそうである。
　先程佳奈と料理をしていた悠はというと、次は配膳のお手伝い。
　もっとたくさんの笑顔に会いたくて。
「はい、どうぞ」
「お嬢ちゃんありがとうねぇ。これは貴女が作ったの？」
「お手伝いさせて……頂きました」
　控えめに笑うと、悠に声をかけてきた上品な雰囲気の婦人は、一口だけその料理を口にして。
「美味しいわぁ。有難う」
　その笑顔に心が暖かくなる、それはまるで「春」のよう。

★春色時間にゆったりと

　――鳥さん、鳥さん。
　目を瞑り、御巫時子が願いを掛ける。空を羽ばたく羽のある者たちに。
「この辺りに綺麗な景色の見れる場所ないですか……？」
　どんなトコロ？　と質問で返されたら。
「うとうとしたくなるような、ところ」
　小さく微笑むと、あっちにあるよ、と返る鳥の声。
　有難うとお礼を言えば「ふぁ、ねむーい」と間の抜けた声が聞こえる。すっかり春の陽気にあてられたののこが、ほんのり空気で歩いているの姿だった。
　近くに寄って、時子はそっと声をかけてみる。
「ねぇ、ののこちゃん。一緒にお昼寝しながら春を感じませんか……？」
「うんうん、お昼寝しよー！」
　そんな嬉しいお誘いなら断る理由もないから。
「あ、俺も混ざっていいかな～？」
　お昼寝スポット探してたんだ～と、のんびり歩いていた千鳥雅人が声をかけてきた。
「うん、皆でお昼寝きっと楽しいよね！」
　ぽかぽかなおひさまの恩恵をみんなで分け合いっこ！それも素敵なはず。

　そよそよと風が葉を揺らす下で夢宮瑠奈は、そっと木に寄りかかっていた。
　交流の話を聞きつけては来たけれど、何をしていいか分からずに。どうしようか、そう思って持たれた桜の木。都会に居た時も桜は勇気をくれた。だからココの桜だって。
　――さぁ、勇気を出そう。
　動かなければ変われない、お友達を探しに行こう！
　自分にそう言い聞かせた瑠奈がゆっくり目を開けると……
「ね、あなたもお昼寝するのー？」
　自分を覗きこむののこの姿。
　どうしよう、お友達がもう来てくれちゃったとつい嬉しくなって。
「うんっ！」
　元気な返事が飛び出した。
　ののこの差し出した手を握り、瑠奈もひょいっと起き上がる。
「この辺のいいところ、どこだろうね～？」
「あっちにあるみたいですから、行ってみませんか？」
　首を傾げる雅人に、時子が言葉を添える。
　さっき鳥さんが教えてくれた方へ。
　
　気持ちいい風の吹く方へ、少し進んでみると……？
「あれ、誰か倒れてるよ～？」
　雅人の指差す先には確かに誰かが倒れているようだった。
　一見寝ているようにも見えるのだが、その肌の色が病的に白く、色も決して良いとはいえない。
「ま、まさか、死体ですか……！？」
　時子が驚きの声をあげて数歩後ずさる。まさかそんな筈は！？

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