春探しの彩色マーチ｜リアクション

春探しの彩色マーチ

★朝の行進曲(マーチ)

　春を探す彼らの朝は早い。
　日曜日の朝ともなれば、誰もがのんびりの空気なものだが、一部の学生たちはそれとは違う期待を輝かせ、歩みを進めている。
　そんな姿がちらほらと。

　その一人、旧市街を歩く御剣刀はというと、馴染みの店を巡り確実に準備を整えていた。
　美味しさは、新鮮なままに。肉屋「しののゐ」ではコロッケ、魚屋「魚新」のちくわ、八百屋「白菜」でバナナ。極めつけは茶屋『紗之香』のお茶を選んで、これでお楽しみの時間の準備に怠りなし。
　さて、と視線を前に向ければ、目の前には小柄な少女――桜庭円の姿があった。
　大きなリュック、一目見て準備が万端なのだと感じさせるのに十分な程だったのは言うまでもなく。　
「それじゃ、お願い！」
　片手に携帯電話、何かに頼みごとをして円は満足そうに電話を切ったのだった。
　あ、と刀に気付いて、ぱたぱたと元気な足取りで近づいてくる。
「刀くん、おはよ！」
「ああ。……今、何処かに電話してたのか？」
「うん、お楽しみの調達はバッチリだよ！」
「……？」
　円がそう笑えば、刀は小さく首を傾げた。
　そのバッチリの意味を知るのは、もう少し先のこと。

　春探しの面々は足取り軽く、校庭へと集まり始めた。
　引率の先生でもある高野有紀先生が、参加するのかどうか最終の確認をして回っている。
「有紀ちゃんやっほー」
　友だちのような口調で話しかけた橘敦志に、高野先生は軽く一息ついて。
「全く、先生って呼べって言ってるだろ、橘」
「あれ？　今日は幸太サン一緒じゃないの？」
　そんな高野先生の反応に既に慣れているのか、敦志は悪戯に笑って話を続ける。
　高野先生だってそうだろうな、と判っていたかのように、もう一度ひと息。二回目はやれやれと、そんな表情で。
「それにしても随分人集まったねー」
「そりゃあ、楽しいことは皆好きだろ？」
「あ、それ同感」
　意見一致で笑いを零し合えば、高野先生はまた忙しそうに確認に戻っていった。
　その背を見送る敦の耳に届いてきたのは、楽しげな女生徒の声。皆に春探しの声をかけていた野々ののこだった。
「ん、おまえさんは一年生かな？」
「はい、そうですよー！　野々ののこです～」
「俺は三年の橘敦志だ、気軽に敦志さんでいいぜ？」
　吹かせる先輩風。
「敦志センパイ！　よろしくお願いしま～す！」
　無邪気に笑うののこに、敦志もついついつられて破顔するのだった。

　先程準備を終えてきた刀や円が合流したのは、小山内海だ。ふわりとした茶色の髪に、瑠璃色のリボンがひらりと揺れて。いつも持ち歩いているスケッチブックに『おはよう』と可愛い文字で綴る。
　海の持ち物はたくさんの『何にしよう』の集まり。お弁当、飲み物、そして画材、たくさん悩んで選んだのだ。
　ふと、辺りに咲く校庭の桜を見て、思い出したことがある。
（トレッキングで見た桜、すごかった）
　もう一度みたいな、そう思っていたのが伝わったのか――、
「春かー、春と言ったらお花見だよね。刀くん、いい場所知ってる？」
「幻の桜、なんてどうだ？」
　二人からそんな話題がぽんと、飛び出した。
　刀にも想いがある――あの桜に、もう一度会いたいと。
『あの、さくら？』
　スケッチブックの文字を見た刀が小さく頷いた。
「……幻の桜とか、たどり着けない秘境なんてロマンだよね！　ねぇ、そこでお花見しようよ」
『わたしももういちどみたい』
　円が行きたいと目を輝かせ、海が嬉しそうにスケッチブックに記せば、目的地は決定だ。
　見てみたい、もう一度見たい、各々の気持ちを心に携えて。

　春を探していざ『行進』開始！

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