黒猫はパンツがお好き？｜リアクション

黒猫はパンツがお好き？

　猫の情報を追ってきた御剣は、民家の窓から抜け出して走り出す男を見た。
　家の中と外から、追う者達の声が聞こえる。
　こいつが犯人だと直感した瞬間、
　――今だ！！
　御剣の本能が叫び、頭で考えるよりも早く体が動いた。
　脳裏に撃鉄が落ちるイメージが浮かぶと同時に、ろっこん『加速』が始動し、御剣の体が高速で移動する。
　精神すらも加速された御剣には、世界のすべてがスローモーションとなる。
　静かな世界で犯人を捕まえた御剣は、ポケットのパンツを男に被せると、そのまま建物の影に身を隠した。

　世界が動き出すと、変化は一瞬で訪れた。
　隠れた御剣と、男を追ってきた者達は、男の姿が黒猫へと変わるのを目撃したのだ。
「私のパンツ！」
　紫蓮が猫がかぶっていた罠用の下着を慌てて取り返す。
　物陰で御剣がほっと胸を撫で下ろした。
　断じて持て余した下着を押し付けたわけではない。
　もともと盗んだ者から持ち主に返されるという、本来の道筋に戻っただけの事だ。

「獣の妖怪の弱点は、妖力源の尻尾と決まっている！」
　民谷がそう言って、逃げられる前に黒猫のしっぽを掴み、確保する。
　首の皮を掴んで暴れないよう抱きかかえられた猫は、近づいて来たマリベルの持つ彼女の下着を爪でひっかけると、鼻先にひきよせた。
　途端、今度は猫が男へと変身していく。
　男は自分を抑え込みきれずに体勢を崩した民谷を突き飛ばして逃げ出した。
「これは夢や。こんな事、起こるわけあらへんもん…」
　そうに違いないと、落ちたパンツを拾い上げたマリベルが無理やり自分を納得させた。

「何て往生際の悪い…っ」
　紫蓮が苛立たしげに言う。

　男を追う咲と陽二に、横道から走ってきた月と真央が加わった。
「もしかして、あれが犯人なのだ？」
　走りながら真央が聞く。
「そうだ！」
　陽二の答えを聞いて、真央は全身に殺気を漲らせた。
「真央ちゃんは、間違ってなかったのだ。やっぱり軽犯罪野郎だったのだ！　万死に値するのだ！　真央ちゃんがこの手で殺ってやるのだ！　これは、天誅なのだっ！！」
　真央は逃げる男の背中めがけて渾身の力でカラーボールを投げつけた。
　よろけながら更に逃げようとする男の前に、いつの間にか先回りした月が立ち塞がる。
「貴方が犯人ですか？　二度とそんな真似が出来ないように、その腕をへし折ってしまいましょう……」
　殺気を纏った月が、座り込む男の方へ一歩近づく。
「ひぃっ」
　殺気をまともにくらって腰を抜かした男は、それでも本能的に後ずさる。
　月達に追いついた小淋が、男を庇うようにして月との間に割って入った。
『いけません、月さん！　出来るだけ穏便に！　平和的に解決したいのです。というか、腕を折るのは物騒すぎます！』
　男に迫る月を、小淋はそう書いたスケッチブックで押し戻す。
　真央も月の腕をひっぱり引き止めた。
「小淋ちゃんの言う通りなのだ！　勝手にボコったらリンチになるのだ。法治国家でありえないのだ。こいつは警察に突き出してやるのだ！」
　先ほどまで殺る気を漲らせていた真央だったが、野性の勘で月を止めなければならないと分かっていた。
　結局、月は自分を想ってくれる真央と小淋を振り払えず、男の命はかろうじて助かった。

　しかし、それがわからない男は、近くの家で箒を見つけると、すぐに抵抗し始めた。
　無駄なあがきをする男に咲が宣言する。
「観念なさい。女性の下着を盗むなど言語道断！　咲が躾け直してさしあげます！」
　追い詰められた男は、近くの家の箒を奪うと、わあわあと叫びながら箒を振り回して威嚇してきた。
　咲は静かに愛用の竹刀を構える。
　ただならぬ気迫に怯えた男は、事もあろうに塀の上にいたブチ猫を強引に掴み上げると投げつけた。
「おネコさまっ！！」
　あわや電信柱に打ち付けられようとした猫を、真央が身を呈して受け止める。
　勢いあまって電信柱に背を打ちつけた真央は、痛みに顔を顰める。
「いい加減にしなさいっ！」
　紫蓮は、罠のパンツにまぶしておくつもりでポケットに入れっぱなしにしていた唐辛子の小瓶のフタを開けて、男に投げる。瓶は男の顔に命中すると、そのまま唐辛子を撒き散らした。
　男はぎゃあと喚きながら、力任せに箒をこちらへと振り下ろして来る。
　咲はそれを除け、力強い踏み込みと共に男の左胴に竹刀を打ち込んだ。
「ぐはっ」
　男が体勢を崩したところに、咲は更に容赦なく鳩尾に向けて竹刀を突き出した。
　声を上げる間すらなく、男は気絶した。
　ようやく大人しくなった男を、逃げないようにと月が鋼糸でしばりあげ、咲と陽二が支えながら彼の家へと連れ戻した。

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黒猫はパンツがお好き？

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