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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
Come and Get It
……だいぶ落ち着いてきたかな。
真白は大きく息を吸って吐いた。忘れていた呼吸のやりかたを、ようやく思い出したような気分だ。
繁忙時間ことランチタイムが終わったのだ。正確に何時何分終了と決まっているわけではないが、感覚的にわかる。
店外順番待ちの列も消えた。あと一時間もすればカフェ利用客が集まることになろうが、ランチタイムほどの修羅場にはならない。客の食事ペースもゆったりになるため、ずっと大荒れだったバックヤードの波も鎮まる。
ホールの中央を横切ると、焼きたてパンの香ばしい匂いが腹のあたりをくすぐった。
お腹すいたー、もう立ってるだけで限界だよー。
空腹は仕事の邪魔をしない。むしろ、仕事をしている間は忘れられるのが救いだった。しかし忙しさのピークがすぎればすぐに、燃焼したぶんのカロリー欲求として、真白の身を激しく責め立ててくるのである。拷問を受けている気分、そろそろ休んで腹の虫を癒やしたいところだ。
ええと──店長代理の姿を探すと、「そこにいたね」とばかりに、にっこりした彼女と目があった。
「白さーん、休憩入っていいよー」
待ってましたの一言だ。真白は肩の力を抜いた。
「あ、いいですか？ それなら休憩入りまーす！」
「よくがんばったね」
店長代理、穐吉（あきよし）えらは、忙しさマックスの時間帯は『鬼指揮官』なんて呼ばれるほどシビアなのに、休憩に入った瞬間、こうして優しいお姉さんに戻る。笑うと糸目になるところなんて、自分よりずっと年上なのに、可愛いなんて思ってしまう。
「はい、これ。コーヒーも持っていってね」
えらが手渡してくれたのは、スタッフだけが味わえるスペシャルな賄（まかな）いだった。
オーバル皿に並んだ、焼きたてのツナコーントーストサンド。こんがり色づいた食パンの間に、マヨネーズで和えたツナと、ぷちっと弾ける甘いコーンがぎゅうぎゅうに詰まっている。とろりと溶けたチェダーチーズがきれいな糸を引き、端から具材がこぼれそうだ。サイドには余り野菜で作ったとは思えない彩りサラダと、小さなコールスロー。それから、おまけについているのは店内製造のにんじんピクルス。実はこのピクルス、こっそり人気で、お土産品としてよく売れているらしい。
メニューに載らない賄いだからこそ、惜しみなく詰め込める贅沢な取り合わせだ。見ただけで、痩せきった胃袋が歓声を上げた。
「……いただきます」
そっと手を合わせ、まずはトーストにかぶりつく。
外はサクッと香ばしく、中はふわっとあたたかい。ツナの塩気にコーンの甘みが、疲れを弾き返すみたいに甘い。チーズのコクが全体をまとめて、味が舌に重なっていく。
ああ……生き返る。
背もたれに少し体をあずけた。
噛み締める。乗り切った充実感と、褒められた嬉しさと、美味しさとを。
湯気の立つコーヒーカップに手を伸ばしながら、真白は小さく息をついた。
さて。この休憩が終わったらもうひと頑張り……だけど。
ぼんやりと思う。
今日の勤務はあとしばらくつづくんだよねえ。
といっても、ランチタイム以降はお客さんもだいぶ減るし、ここまでの忙しさに比べれば、ずっと気楽か。
あ、そういえば……ふと思い出した。
次の講義で提出しなきゃいけない課題、あったんだっけ。
一般教養的な科目とはちがって、専門の基礎講義なので扱いがちょっと厳しい。しかしおろそかにはできない。なぜってここでの評価が、将来のゼミ選択にひびくらしいと聞いているから。
課題そのものを持ってきているわけではないが、とりあえず概要だけでも目を通しておいていいかもしれない──。
と、スマホのメモアプリを開こうとして、すぐ閉じた。
こんな疲れた頭で読んでも、絶対に頭に入らない自信がある。
今日のバイト終わってから……やる時間ならあるけど、気分じゃないなぁ……。
「あー、もう面倒！」
独りごちて、ぽいっとピクルスを口に放りこむ。コクのある酸味が、もやもやした気持ちを洗い流してくれた。
まぁ、提出はもうちょっと先だから余裕はあるし。
うん、明日やるかぁ。
自己啓発本ならきっと『空き時間を活用！』とか言って煽ってくるんだろうけど、真白からすれば「はいはい、スゴイデスネ」でしかない。むしろそういうの、わりと苦手な考え方だ。
そういえばマタ大のキャンパスにも、「寝てない俺」「成功者の本しか読まない俺」みたいな自分ブランド全開の人がいて、真白からすればかなりしんどい。
ああいう人たちって、いつかノーベル賞でも、もらうつもりで張り切ってるんじゃないのかな。
でも私の場合は……とりあえず、このサンドが功労賞だね。
真白は大きく息を吸って吐いた。忘れていた呼吸のやりかたを、ようやく思い出したような気分だ。
繁忙時間ことランチタイムが終わったのだ。正確に何時何分終了と決まっているわけではないが、感覚的にわかる。
店外順番待ちの列も消えた。あと一時間もすればカフェ利用客が集まることになろうが、ランチタイムほどの修羅場にはならない。客の食事ペースもゆったりになるため、ずっと大荒れだったバックヤードの波も鎮まる。
ホールの中央を横切ると、焼きたてパンの香ばしい匂いが腹のあたりをくすぐった。
お腹すいたー、もう立ってるだけで限界だよー。
空腹は仕事の邪魔をしない。むしろ、仕事をしている間は忘れられるのが救いだった。しかし忙しさのピークがすぎればすぐに、燃焼したぶんのカロリー欲求として、真白の身を激しく責め立ててくるのである。拷問を受けている気分、そろそろ休んで腹の虫を癒やしたいところだ。
ええと──店長代理の姿を探すと、「そこにいたね」とばかりに、にっこりした彼女と目があった。
「白さーん、休憩入っていいよー」
待ってましたの一言だ。真白は肩の力を抜いた。
「あ、いいですか？ それなら休憩入りまーす！」
「よくがんばったね」
店長代理、穐吉（あきよし）えらは、忙しさマックスの時間帯は『鬼指揮官』なんて呼ばれるほどシビアなのに、休憩に入った瞬間、こうして優しいお姉さんに戻る。笑うと糸目になるところなんて、自分よりずっと年上なのに、可愛いなんて思ってしまう。
「はい、これ。コーヒーも持っていってね」
えらが手渡してくれたのは、スタッフだけが味わえるスペシャルな賄（まかな）いだった。
オーバル皿に並んだ、焼きたてのツナコーントーストサンド。こんがり色づいた食パンの間に、マヨネーズで和えたツナと、ぷちっと弾ける甘いコーンがぎゅうぎゅうに詰まっている。とろりと溶けたチェダーチーズがきれいな糸を引き、端から具材がこぼれそうだ。サイドには余り野菜で作ったとは思えない彩りサラダと、小さなコールスロー。それから、おまけについているのは店内製造のにんじんピクルス。実はこのピクルス、こっそり人気で、お土産品としてよく売れているらしい。
メニューに載らない賄いだからこそ、惜しみなく詰め込める贅沢な取り合わせだ。見ただけで、痩せきった胃袋が歓声を上げた。
「……いただきます」
そっと手を合わせ、まずはトーストにかぶりつく。
外はサクッと香ばしく、中はふわっとあたたかい。ツナの塩気にコーンの甘みが、疲れを弾き返すみたいに甘い。チーズのコクが全体をまとめて、味が舌に重なっていく。
ああ……生き返る。
背もたれに少し体をあずけた。
噛み締める。乗り切った充実感と、褒められた嬉しさと、美味しさとを。
湯気の立つコーヒーカップに手を伸ばしながら、真白は小さく息をついた。
さて。この休憩が終わったらもうひと頑張り……だけど。
ぼんやりと思う。
今日の勤務はあとしばらくつづくんだよねえ。
といっても、ランチタイム以降はお客さんもだいぶ減るし、ここまでの忙しさに比べれば、ずっと気楽か。
あ、そういえば……ふと思い出した。
次の講義で提出しなきゃいけない課題、あったんだっけ。
一般教養的な科目とはちがって、専門の基礎講義なので扱いがちょっと厳しい。しかしおろそかにはできない。なぜってここでの評価が、将来のゼミ選択にひびくらしいと聞いているから。
課題そのものを持ってきているわけではないが、とりあえず概要だけでも目を通しておいていいかもしれない──。
と、スマホのメモアプリを開こうとして、すぐ閉じた。
こんな疲れた頭で読んでも、絶対に頭に入らない自信がある。
今日のバイト終わってから……やる時間ならあるけど、気分じゃないなぁ……。
「あー、もう面倒！」
独りごちて、ぽいっとピクルスを口に放りこむ。コクのある酸味が、もやもやした気持ちを洗い流してくれた。
まぁ、提出はもうちょっと先だから余裕はあるし。
うん、明日やるかぁ。
自己啓発本ならきっと『空き時間を活用！』とか言って煽ってくるんだろうけど、真白からすれば「はいはい、スゴイデスネ」でしかない。むしろそういうの、わりと苦手な考え方だ。
そういえばマタ大のキャンパスにも、「寝てない俺」「成功者の本しか読まない俺」みたいな自分ブランド全開の人がいて、真白からすればかなりしんどい。
ああいう人たちって、いつかノーベル賞でも、もらうつもりで張り切ってるんじゃないのかな。
でも私の場合は……とりあえず、このサンドが功労賞だね。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2025年11月17日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年11月24日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2025年11月24日 11時00分
