美和ちゃん先生の結婚式｜リアクション

美和ちゃん先生の結婚式

　女子力はアップするのか

　長年の教育者としての善行のおかげ――というと堅っくるしいが、付きあいやすい先生として親しまれてきた新婦のまわりはつねに賑やかで、次から次へと誰かが祝福を述べにきていた。いまは綾花が歓談している。いっしょの早川先生は美和よりも俊介との会話が弾んでいるようだ。
「本当におめでとうございます。幸せそうなお二人の笑顔を見ていると、私まで自然と笑顔になっちゃいます」
「ありがと～綾花ちゃん！　……よしよし、泣かないで～」
　笑顔に、と言っているのに感極まってうるうるしてくる綾花の頭を、美和はやさしく撫でてくれた。

「はあああ～～高校生だった教え子たちがみんな綺麗になっていく～～お肌ぴちぴちだし。これからさらに華ってかんじ。くうう、羨ましいっ！」
　綾花が辞したあと、美和は感慨深くため息をついていた。
　そこにやってきたのは二輪の花――パープルなドレスの紫とブルーなドレスの蒼である。
「今日の主役がなにを嫉妬してるんですか」
「くうう、美人姉妹登場だわ……！　もーほんとにっ！　あなたたちもぴちぴちで、めっちゃ綺麗！」
「お褒めにあずかり恐縮です。久保田先生もとても綺麗よ」
「……なにかしら、この敗北感……っ！」
　ずずーんと肩を落とす美和。
「久保田先生。これから黒崎先生の伴侶になるんでしょう？　黒崎先生と結ばれた自分をもっと信じてあげて」
　紫がそう諭し、蒼も美和を持ち上げる。
「ウェディングドレス、本当に素敵ですよ。メイクも華やかでよくお似合いです。嘘じゃないです」
「うん……そうよね。ここで自信をなくしたら、相談に乗ってくれた紫ちゃんにもわるいもの！」
「そうです、そうです」蒼がさらに励ます。「お姉ちゃんと女子力アップ大作戦したって聞きました。だから絶対、綺麗なんです！」
「そうね、そうよね。ありがとね！　蒼ちゃんもとっても綺麗。こうしてみると紫ちゃんによく似てるわね」
　――姉に似ている。
　それは蒼にとって、嬉しい言葉だった。頭がよくて、落ち着いていて、清楚で美人なお姉ちゃん。どれも自分にはないものばかりだ。でも、だからこそ、似ているといわれると誇らしい気持ちになる。姉のような素敵なところが自分にもあるような気がして。
「私で力になれることがあれば何でも言ってください」
　蒼は思わずそう言ってしまっていた。
　それに返ってきたのはこんな言葉だ。
「女子力がアップするゲームってない？」
「え？　久保田先生、ゲームするんですか？」
「あんまりだけど。蒼ちゃんがプロゲーマーだって聞いたから。聞いてみようかな～って」
「はあ……ん～～～……着せ替えゲームとか、かなあ？」
　一応アプリなどを教えてあげたが、美和はちょっとピンと来てない様子だ。
　会場の隅にいた司会の人が時計を確認しているのを見て、紫はくすくすと笑って言った。
「久保田先生。ゲームじゃなくて、そろそろリアルなお着替えみたいですよ？」