美和ちゃん先生の結婚式｜リアクション

美和ちゃん先生の結婚式

　プロローグ～挙式

　星ヶ丘にある高級ホテル、ステッラ・デッラ・コリーナに併設された結婚式のための礼拝堂には燦燦と白い光が降り注いでいた。控えめに流れているパイプオルガンの和音が、おごそかで華やかな婚姻の儀礼を彩っている。それはまるで花嫁のヴェールのように、人々を日常から切り離して、美しくて幸福なものしか存在しえない天界へと連れていく装置のようであった。
　新郎と新婦は、礼拝堂の最奥に立つ神父の前でかしこまり、神妙な顔で頭を垂れている。
　新郎の名は黒崎俊介。若くして寝子高の教頭を務める男。
　新婦の名は久保田美和。同じく寝子高の国語教諭だ。
　ふたりは約５年前に職場である寝子高で知りあい、しばらくのあいだは意識することもなくいたのだが、三年目の途中くらいからなんとなく距離が近づいてゆき、二年を超える交際を経て今日という日を迎えたのである。
　式が進み、サンタクロースのような白髭の神父がお定まりの誓いの言葉を問いかける。
「新郎、黒崎俊介さん。あなたはここにいる美和さんを、病める時も健やかなる時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか？」
「はい」
　新郎が答えると、新郎の親族席から両親の写真を手に出席している黒崎家のふたりの姉が、思わずハンカチで目元を抑えた。すすり泣く声は、姉たちの隣に座る桜栄あずさだ。俊介の母親はすでに他界しており、外科医の父は急なオペでどうしても出席できずということで、俊介という人材を見つけて寝子高の教頭に据えて育てあげたあずさがすっかり新郎の保護者のようになっている。
　つづいて、神父様は美和に尋ねる。
「新婦、久保田美和さん。あなたはここにいる俊介さんを――」
　今度は新婦側の親族席にいる、美和の両親が涙をこぼす番だった。
　それから、参列席にいる同僚や、彼女の歴代の教え子たちも。
（美和チャンせんせー、俊介せんせー……）
　御薗井Ｅセレッソは涙ぐむ。思い返せば、あれはもう５年も前……高校１年生のときのことだ。１年４組の担任だった美和先生はチャーミングで生徒との距離も近く、ずいぶん親しくしていたものだ。あのときのクラスは結束が強くて、今日も多くの生徒が参列している。浮舟久雨、神野美野梨、如月庚、薄野五月、畑中華菜子……。恵御納夏朝は双子である恵御納夏夜と並んで参列し、綾辻綾花はクラスメイトからは少し離れて早川珪といっしょにいた。個人的な衝動から高１最後の定期試験を放棄して留年した椎井莉鳥もまた、２度目の１年生と続く２年生までクラス担任は美和だった。
　もちろん、この祝いの日に駆け付けたのは旧１－４メンバーだけではない。ひょんなことから美和との親交を深めていた仙藤紫・仙藤蒼姉妹や、島外からの参列者である八神修と七夜あおいの姿も見える。
（ほんとにほんとに懐かしい……まるで同窓会みたいナノ）
　セレッソの脳裏に、挙式がはじまるすこしまえの、友人たちと再会の瞬間がよみがえる――

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