美和ちゃん先生の結婚式｜リアクション

美和ちゃん先生の結婚式

　今どうしてる？

「近況ですかー」
　わいわいと賑やかなのは、旧１年４組のメンバーが多く集まったテーブルだ。誰かの「みんな今どうしてるの？」という質問に、口火を切って答えたのは蕎麦屋すすきのの長女、五月である。
「私は調理師専門学校に通っています。二年制なのであと半年くらいで卒業ですねー」
　その発言を受けて、私も私も、と猫島軒の一人娘である華菜子が手を挙げる。
「私も今、専門学校で勉強してるアル。調理師免許取得を目指しながら、店の経営についても学んでるアル。ラーメンを作るのが上手なだけじゃ、お店は継げないアルからネ」
　久雨はふたりの蕎麦好き、ラーメン好きが変わっていないのが素直に嬉しくて微笑みを浮かべる。
「やはり、二人とも店を継ぐつもりか」
「ふっふ。いまの時点では、お蕎麦と関わりのない人生というのは想像がつきませんねー」
「私もラーメンなしの人生は考えられないアル。私の夢は子どものころからずーっと変わらず『ラーメン屋』さんアル。でもいまは、その夢はもっと大きくなってるアルヨ」
「というと？」
　久雨が促すと、華菜子はオレンジサワーが入ったグラスを手に立ち上がり宣言した。
「いまの私の夢は、寝子島以外にも猫島軒のお店を出すこと！　世界中の人に美味しいラーメンを食べてもらいたいアル！」
　あまりに立派な宣言だったので、みんなはわあっと拍手する。気をよくした華菜子はオレンジサワーをくっと煽ってニコニコになった。五月がそれを見て目を丸くする。
「おや。お酒ははじめてと言ってませんでした？　そんなに一気に……」
「ぷは～あははは、世界一のラーメンを作るアル～～！」
「……笑い上戸みたいですねー」
　機嫌よく笑い続ける華菜子を座らせて、五月は聞いた。
「浮舟さんは？　いまどちらに？」
「私か？　私は島外の大学で栄養学を学んでいる。その……やはり好きなんだ。料理をするのが」
　ほわほわと柔らかい空気が久雨から漂う。振る舞いや表情はかつてと変わらずキリッとしている彼女だが、高校時代よりも落ち着いた雰囲気になったようだ。
「なんだか丸くなりましたかねー？　あ、もちろん性格的にという意味ですが」
「むう……そうかもしれんな」
　高校生のころはクールで生真面目な完璧主義者で、自分の体形を嫌って男子制服を着用していたものだったが、いまはそのあたりの角がすこし取れたかもしれない……と、久雨は自分を分析する。
「久雨チャン。それって……」セレッソが無邪気に久雨の首元を指さす。「そのステキなネックレスが関係してたりするノ？」
「えっ……あ、これは……！」
　久雨は照れて首元に手をやった。
　ネックレスは、シンプルで上品な指輪を通したものだった。恋人から贈られたものだ。婚約や結婚の話はまだないが、おそらく自分はいずれ彼と人生をともにすることになるだろう。
「……そうだな。そうかもしれない」
　詳しく語ることはせず、ただただほんわかと久雨は笑った。
　それでセレッソたちはいろいろ察した。
　幸せそうでなによりだと。