美和ちゃん先生の結婚式｜リアクション

美和ちゃん先生の結婚式

　香りは消えても祝福は残る

　ここで、新郎と新婦はお色直しのために退席した。
　場が簡単なゲームなどで盛り上がっているなか、ウォルター・Bが修とあおいの席にやってくる。
「やあ。よかった、君たちも来ていて」
「ウォルター先生。先生もいらしていたんですね」
「もちろんだよぉ。同僚ふたりが結婚だなんてめでたいからねぇ。ところで、君たちに渡したいものがあって」
　ウォルターがふたりに差し出したのは、お守り袋に似た可愛らしいものだった。
「これは？」
「はは、じつは妻がね――」

◇

「――『The scent fades, but the blessing remains』……香りは消えても祝福は残る？」
　数日前の夜更けのこと。ソファで大きくなったおなかをゆったりと撫でながら、行けない自分の代わりに渡すお祝いの品は何がいいかと思案していた稲積柚春は、ウォルターの言葉でひらめきを得た。
「そっか……日本でも香りは清めや祓いと結びつく縁起物。ならハーブを使った香守かな」
「かおりまもり？　ってなんだい？」
「香りのするお守りのことだよ」
　そうだ。柚春らしいといえば、やはり香りに関するものだろう。夫のサジェスチョンに感謝する。
　そうと決まれば、アイデアは湯水のように湧いてきた。
「袋は英国の夫婦の絆を守る色と日本の誠実の色にあやかって白地に刺繍をいれよう。刺繍は鳩がいいね。鳩は真実の愛を運ぶ平和の使者だから。淡い水色で縁を銀糸にして……ああそうだ、咥えた四つ葉のクローバーは淡い薄荷色で、縁を薄金糸にしよう」
「クローバーも何か意味があるのかい？」
「信仰・希望・愛・運……よきものの象徴だよ」
　柚春が立ち上がりかけるとウォルターが気づかいをして、彼女がいつも使っている裁縫箱を持ってくる。柚春は裁縫箱のなかからイメージに合う刺繍糸を選び、それからハーブの瓶たちも持ってきてもらう。
「入れるハーブは縁を大切にする意味を込めたいね。真実の愛・幸せな結婚の連鎖を意味するマートルと、記憶と誠実・祝福と絆を意味するローズマリーがいいかも」
　いそいそと細やかな手仕事をはじめる妻を、ウォルターはのんびりと見守る。
「器用なものだねぇ」
「まあ、このくらいは。ねえ、カードはワットに任せてもいい？　僕たちの連名で、祝福の言葉を贈ろう」
「了解だよぉ。なんて書く？」
「心からお祝いと祝福を申し上げます。……って、英語で」
「お任せを」

◇

『With our heartfelt congratulations and blessings. ――from watt & yuzuha』
　祝福を込めたカードと香守は、ウォルターの手でたしかに新郎と新婦に贈られた。
　修とあおいにプレゼントされたのは、余った材料で作った香守だった。新郎新婦に渡したものより小ぶりで、刺繍の金銀の縁取りこそないものの、祝福はおなじだけ詰まったものである。
『花嫁の残り福と僕の幸せが……距離に負けない八神＆七夜先輩にも結ばれていきますように』――そんな柚春の想いが籠ったプレゼントに修たちはびっくりしつつも喜んで、心からの感謝を述べた。
「ありがとうございます。とても嬉しいです。……今日は、彼女は？」
「大事をとって欠席させてもらったよぉ」
　その言葉で修は察した。あおいを見つめて「子ども、良いなあ……」とつぶやき彼女をどぎまぎさせたあと、「お祝い、贈りますね」とウォルターに微笑む。
　ありがとう、とウォルターも微笑んだところで、お色直しを終えた新郎新婦が会場に戻ってきた。
「わあ！　ピンクのドレスも綺麗……」
　あおいが感嘆の声をあげる。
「ああ。久保田先生のイメージにぴったりだ。……あ、ウォルター先生、あれ見てください」
　新婦の腰のあたりに、柚春が作った香守が飾られている。
　美和はウェディングドレスの緊張から解き放たれたようで、ほぐれた笑顔だ。
　それを見て、修とウォルターはささやきあった。
「喜んでもらえたみたいですね」
「そうだねぇ。そう、妻に伝えるよぉ」

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