美和ちゃん先生の結婚式｜リアクション

美和ちゃん先生の結婚式

　懐かしい顔

「セレッソさん」
　挙式が始まる三十分ほどまえのことだ。ロビーで受付を終えたセレッソは、背後から肩を叩かれ振り返った。
　声をかけてきたのは美野梨だ。長い黒髪と赤いフレームの眼鏡はそのままに、記憶のなかよりしっとりとしたお姉さんになっていた。ドレスではなく就活用のスーツより少し華やかな白ブラウスにスカート姿で、高校生の頃の理系少女の雰囲気そのままである。
「美野梨チャン！　久しぶりナノ！　変わらないネっ♪」
「セレッソさんはすっかり大人びたわ。ドレスもすごく似合ってる」
　ひざ丈の淡いピンクのドレスは、色合いの甘さとデザインのシックさが相俟って、二十歳になったセレッソによく似合っていた。ドレスを誉められ、セレッソはちょっと照れてしまう。
　美野梨はふふっと笑って、眼鏡の位置を調整した。
「最初に会えたのがセレッソさんでよかったわ。正直、すこし緊張していたのよ……クラスメイトと会うのは久しぶりだから」
「そうナノ？　ワタシはとーっても楽しみにしてたよ♪　美和チャンせんせーと俊介せんせーの結婚はもちろんだけど、あの頃のみんなに会えるのはもーっと楽しみにしてたノ！　誰が来るのかなって……あっ♪」
　セレッソが大きく手を振る。
　手を振り返したのは五月と華菜子。旧市街のお蕎麦屋さん、ラーメン屋さんコンビだ。五月はライトグリーンのドレスに白のストールでさわやかに、華菜子は丈が長くて落ち着いた色合いの花柄チャイナドレスで上品かつフォーマルにドレスアップしていた。
「ふっふっふー。お久しぶりです♪」
「五月チャンっ♪」
　セレッソは親友の五月に飛びつく。
　あっという間に話に華が咲きはじめる二人を横目に、華菜子は美野梨に上目遣いで尋ねる。
「ひゃああ、結婚式に参列なんて初めてだから緊張するアルー。恰好、おかしくないアルか？」
「とても素敵ですよ」
「よかったアルー。それにしても、みっちゃん先生とくろちゃん先生が結婚する仲だったなんて知らなかったアルヨ。めでたいからみんなで沢山お祝いしたいアルネ♪」
　美野梨も、ええ、とうなずく。
　出逢ってしまえば話は尽きぬもので時間の感覚がなくなってくる。
　そのうちロビーは参列客でいっぱいになってきた。
　歴代の教え子たちや先生方……知らない顔もあるが、知った顔もたくさんある。それぞれが、懐かしい知り合いの顔を見つけては華やいだ声をあげるのを見るにつけ、結婚式という場がふたりを祝うだけでなく、しばし遠く離れていた人と人とを繋ぎなおす場なのだと感慨深くなったりする……。
　挙式の時刻が近づいてきた。式場の人に案内されて、人々が礼拝堂に移りはじめる。
　人がまばらになってきたロビーに、クールに入ってきたのは――
「よぉ。ヒーローは遅れて登場する……なんてな」
「何を言っている……５分前だ。時間ぴったりだろう」
　庚と久雨だった。
　庚は前髪をあげてフォーマルなスーツを着用している。片手をポケットに突っ込んで、そこはかとなく不良感があるところは相変わらずで懐かしい姿だった。
　久雨はといえば黒のパンツスーツで髪を一つに纏めていた。凛としていて素敵だ。
　旧１－４の仲間たちは、待っていたとばかりに二人に駆け寄る。
「来ないのかと思っちゃいましたよー」
　五月が微笑む。
「んなわけねぇだろ……浮舟とばったり会ったから、ちょっと外で話してただけだ」
「うむ。本当は早めに着いていたのだが、懐かしかったものでつい、な」
「ふふふふっ♪　気持ちはわかるノ！」
　セレッソは庚と久雨にハグして笑う。
　本当はもっと話していたい。
　今なにしているのか聞いてみたい。
　でもそれは、またあとで。
「さ、式がはじまるノ。みんなでいっしょに座ろうナノヨ！」

　――そうして、今に至る。

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