ハッピー・ハロウィン！　それぞれの10月31日｜リアクション

ハッピー・ハロウィン！　それぞれの10月31日

【お姫様と魔法少女】

　10月31日の午後。
　午前中だけの授業を終えて、朝鳥さゆるは、大学から帰宅した。
　この日は、勤務先のキャバクラ『プロムナード』でハロウィンイベントがある。そのためか、彼女が帰宅すると、同棲中の恋人で、同じ店に勤める姫木じゅんは、すでに仮装していた。
　じゅんの衣装は、お姫様だ。
　先日のプレハロウィンイベントで購入した福袋の中身で、白とピンクが基調のドレスだった。福袋には他に、ティアラや靴も入っていた。
（可愛い）
　じゅんの仮装姿に、さゆるは見とれてしまう。
　普段のじゅんは、黒が基調のゴスロリ系ファッションなこともあって、お姫様姿はさゆるの目に、殊更可愛さが際立って見えたのだ。
「何ぼうっとしてるの？　さゆるも着替えて見せてよ」
　そんなさゆるに、じゅんが声をかけて来る。
「そんなに急いで着替えなくても」
「あたしが見たいの。早く着替えて」
　抗弁するさゆるに、じゅんが小さく口を尖らせた。
「はいはい」
　そんな仕草も可愛くて、さゆるは苦笑混じりにうなずく。

　さゆるの福袋の中身は、魔法少女の衣装と魔法のステッキだった。
　衣装は赤とピンクが基調で、袖とスカートは短かい。
（これを着て街中を歩くのは、けっこう勇気がいるな……。あたしは、175cmと高身長だし、似合わないかも）
　袋から出してみて、さゆるは内心に溜息をつく。
　だが、再度じゅんから急かされて、彼女は衣装に着替えた。
（それなりに似合ってる？）
　鏡の前に立ってみて、彼女は小さく目を見張る。
　思ったほど悪くはない、と見えたのだ。
「どう？」
　彼女はふり返って、じゅんに自分の姿を見せた。
「うん。似合ってるわ」
　見るなりじゅんは、満足げに笑う。
（じゅんがそう言うなら、悪くないってことね）
　さゆるはその笑顔に、改めて鏡を見てうなずいた。

　出勤には早い時間だったが、２人は出かけることにした。
　通りに出ると、仮装した人をチラホラと見かけた。
　やがて２人は、建物の壁に貼られたポスターで、今日はシーサイドタウンでもハロウィンイベントをやっているのだと知った。
「駅前で、お菓子や飲み物がもらえるらしいわ。行ってみようよ」
　じゅんが言うので、さゆるも一緒に駅前へと向かった。
「トリック・オア・トリート」
　そう声をかけて、じゅんは駅前でお菓子をもらい、無料の飲み物をもらう。
　それらを飲み食いしたあとは、通りに並ぶ店で買い物をして福引券をもらったりと、じゅんはイベントを満喫していた。そんな彼女の姿に、さゆるは思わず目を細める。
（楽しんでるみたいね）
　胸に呟いて、さゆるも幸せな気分になった。　

　通りを歩いて買い物を楽しんだあと、彼女たちは福引をした。
　じゅんだけでなく、さゆるも多少は買い物をしたので、福引券を何枚かもらったのだ。そこで、これもやってみよう、ということになった。
　その結果、彼女たちはどちらも、４等のコーヒーと紅茶のセットを引き当てた。
「同じものが当たるなんて……」
「ほんとにね。でも……それなりに高いものみたいだし、すぐに飲まないとダメなものでもないし、いいんじゃない？」
　軽く眉をひそめるじゅんに、さゆるは肩をすくめて言った。
　２人がそれぞれ提げた紙袋の中には、綺麗な包装紙に包まれた長方形の大きな箱がある。
　係員の説明によると、贈答用のティーパックとドリップパックのセットらしい。
「でも、あたしたち、これから出勤よ」
　じゅんの言葉に、スマホで時間を確認すると、たしかにそろそろ店へ向かった方がいい時刻だ。
「ああ……。とりあえず、店のロッカーに入れておけば、大丈夫よ」
　さゆるはうなずき、少し考えてから言う。
「そうね」
　言われてじゅんも納得する。
　そして２人は、更に人が多くなった通りを、店の方向へと歩き出したのだった。

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