ハッピー・ハロウィン！　それぞれの10月31日｜リアクション

ハッピー・ハロウィン！　それぞれの10月31日

【お菓子づくしの日】

　ハロウィン当日。
　朝永真深は、クラスメイトで同じ水泳部の親友、カーリーこと手島ゆかりと一緒に、シーサイドタウンのハロウィンイベントに来ていた。
　もちろん２人とも、仮装していた。
　真深はゾンビのメイドの仮装で、ゆかりは、キョンシーの仮装だ。
「トリック・オア・トリート！」
　真深は駅前で、仮装したイベントスタッフに声をかける。こうすると、無料でお菓子をもらえるのだが……渡されたのは、ケバケバしい紫色のスティックゼリーだった。
　同じく声をかけたゆかりも、スティックゼリーをもらった。こちらは、毒々しい緑色だ。
「こんな凄い色のゼリーを食べたら、舌まで染まっちゃいそうね」
「ゼリーなんだから、舌に色がついたりしないでしょ」
　もらったゼリーをさっそく口にしながら歩き出す真深に、ゆかりが笑いながら返す。

　通りはかなりの人出で、ごった返していた。
　そのせいか、お菓子のカゴを手にしたスタッフが、通りの方まで出張って来ている。
　それを見つけて２人は、再び「トリック・オア・トリート！」と声をかけた。
　そうやって、２人はいくつかお菓子をもらう。
　そのうち食べきれなくなって、真深は仮装の小道具として手にしていたカゴに、それらを入れて歩いていた。
　すると突然、後ろから「トリック・オア・トリート！」と声をかけられたのだ。
「何？」
「そのカゴ。スタッフと間違えられたんじゃない？」
　驚く真深に、ゆかりが囁いた。
　真深は、なるほどとうなずく。そして。
「どうぞ」
　バスケットからお菓子を適当に取って、声をかけて来た人に渡した。
　その人は礼を言って、人込みの中に消えて行く。
「いいの？」
　小さく目を見張って、ゆかりが訊いて来る。
「いいの。どうせもらったものだし」
　うなずいて、真深は答えた。

　通りを歩いているうちに、２人は駅前に戻って来た。
　そこで撮影スポットで、写真を撮ることにする。
　満月とお城に、お化けやコウモリが飛んでいる背景を背にして２人は、スマホ片手に自撮り写真を撮った。
　そんな２人に「写真撮らせてもらって、いいですか？」と声をかけて来たのは、大学生ぐらいの男性だった。
「いいですよ」
　真深が素直に答える。
　ゆかりも特段いやそうではなく、２人は男性に求められるまま、並んでポーズを取ったり、１人ずつ撮ってもらったりと、しばらく撮影につきあった。
　やがて男性が礼を言って立ち去ると、真深たちは再び通りを歩いて、周辺の店で買い物をした。
　結果、福引券を何枚かもらったので、福引をやろうということになった。
（何が当たるかな……）
　真深は、淡い期待と共にガラガラを回す。
　だが、出て来るのは６等の白い玉ばかりだった。
「ああ～」
　渡された数個のポケットティッシュに、真深はがっくりと肩を落とす。
「仇は討ってあげるから」
　それへ言って、今度はゆかりが鼻息も荒く、ガラガラを回し始めた。
　こちらも最初は白い玉ばかりだったが、最後にポロリと緑の玉が出た。
「おめでとうございます！　５等のお菓子セットです！」
「やった！」
　係員の言葉に、ゆかりは小さくガッツポーズをする。
　そのあと渡されたのは、数個のティッシュと、綺麗に包装された四角い箱だった。
「けっこういいお菓子っぽいね」
「よかったわね。お菓子でも、当たって」
　箱を見て言うゆかりに、真深はそっけなく返す。
「落ち込まないの。きっと、運は他のとこで使えってことよ」
　ゆかりは、そんな真深の背中を励ますように、軽く叩いた。そして続ける。
「それより真深。これからうちへ来ない？　これ、一緒に食べようよ」
「ありがとう、カーリー。じゃ、お相伴に預かるわ」
　真深も気を取り直してうなずいた。
　２人はそのまま、雑踏の中を歩き出すのだった。

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