夏祭りの夜に｜リアクション

夏祭りの夜に

【ヨーヨー釣りで勝負！】

　ある夏の日の夕方。
　倉前七瀬はウォルター・Bを誘って、寝子島神社の夏祭りにやって来た。
「どうせなら、思いっきり楽しみましょう。二人で屋台全制覇、目指してみます？」
　境内の人出と屋台の並ぶ祭の雰囲気に、わくわくと胸を躍らせながら、七瀬が言う。
「それも悪くないねぇ」
　対してウォルターは、いつもどおりの、のんびりした口調で返してクスクスと笑った。

　そんな二人が、最初に足を止めたのは、しらす焼きそばの店だ。
「これ、最近人気らしいですよ」
　言って七瀬は、さっそく焼きそばを買った。
　渡されたのは、一面にしらすが散らされ白くなった焼きそばで、七瀬は目を丸くする。
「これが『映える』と人気のしらす焼きそば。なるほど」
　自分は買わず、傍から興味津々で覗き込んだウォルターも、目をしばたたかせた。
「しらすで、麺が見えないねぇ」
「ですね」
　うなずいて、とにかく食べてみようと、七瀬はそれを持って屋台の傍のテーブルへと移動した。
　席について、一口焼きそばを食べる。
「んん、美味しい！！」
　モグモグと咀嚼して叫ぶと、彼は「ウォルターさんも食べてください」と焼きそばを箸ですくって、ウォルターの方へと差し出した。
　興味深く七瀬が食べるのを見守っていたウォルターは、差し出されたそれを口に入れた。
「たしかに美味しいねぇ。僕も食べたくなって来たから、買って来るねぇ」
　思っていたより美味だったのか、言ってウォルターは立ち上がると、屋台の方へと向かった。

　ややあって、二人とも焼きそばを食べ終わると、七瀬はあたりを見回した。
「食べたらちょっと、動きたくなりました。ウォルターさん、せっかくやけん勝負しましょう。買った方が猫の形の綿あめを奢るというのは、どうですか？」
「いいねぇ、やろうか。でも、何で勝負する？」
　ウォルターもうなずき、訊いて来る。
「射的！　……ではウォルターさんにかなうはずもないので……」
　七瀬はう～んと考え、続けた。
「ヨーヨー釣りはどうですか？」
「いいよぉ」
　ウォルターが承知したので、二人は勝負のためにヨーヨー釣りの店へと移動した。
「こよりが切れないように、気をつけて……」
　七瀬は慎重に、ヨーヨーを釣る。
　だが、慎重になりすぎたせいか、なかなか釣れない。ようやく四個釣ったところで、こよりが切れてしまった。
　一方、ウォルターはこれと狙ったヨーヨーを、次々と引っかけて釣り上げて行く。
　終わった時には、けっこうな数が釣れていた。数えてみると、十一個ある。
　結局、七瀬が四個とウォルターが十一個で、勝負はウォルターの勝ちだった。
「やっぱり、ウォルターさんはすごいですねぇ」
　七瀬は感嘆と共に、そんな呟きを漏らす。
　とはいえこの勝負、負けた側が奢ってもらえることになっているので、店を移動して七瀬は猫の形の綿あめを買ってもらった。
　猫の頭を模した綿あめは、なんとも愛らしい。
「これ、可愛いですね。食べるのがちょっともったいない気もします」
　などと言いつつも、七瀬は綿あめをかじった。
「可愛くデコレーションされたものって、どうしてもそういう気になるよねぇ」
　ウォルターも言って、笑った。

　境内を歩きながら、綿あめを食べてしまうと、七瀬はふと思い出して言った。
「そうだ。僕、花火持って来たんです。どこかに移動して、やりませんか？」
　そう、彼は体に斜めにかけたカバンの中に、昼間買った花火セットをしっかり持参して来ていたのだ。
　空にたくさん打ち上げる花火もいいが、自分たちで一緒にやって楽しめる花火も夏の醍醐味だと、彼は思うのだ。
「いいねぇ。じゃあ、ここを出て、池のあたりまで行こうかぁ」
　ウォルターがうなずいて、言った。
　そこで二人は神社を出て、近くにある耳福池へと向かう。
　池のほとりは、静かで他に人の姿もなかった。
　水辺に近い一画で、二人は足を止める。
「ここでやろうか」
「はい！」
　ウォルターが言うのへうなずいて、七瀬はカバンから花火セットを取り出す。
「ウォルターさん、どれがいいですか？」
「うーん、そうだねぇ。どれにしようかなぁ……」
　花火セットを広げて、二人はあれがいいこれがいいと、最初に火をつける花火を選んだ。
　やがて二人は、それぞれが選んだものに火をつける。
「祭といったら、花火ですよね！」
　明るく燃え上がり、小さな火花を散らす花火を見ながら、七瀬がはしゃいだ声を上げた。
「そうだねぇ」
　ウォルターも目を細めて笑う。
　そんな二人の背後では、風に乗って寝子島神社の祭の賑わいが、遠く聞こえているのだった。

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夏祭りの夜に

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