幸運？の青いバラ｜リアクション

幸運？の青いバラ

　…………。

　ミゾレたちが錯乱していた有祈たちに捕まってしまう、少し前のこと。

　倉庫の奥の奥。ジェームズたちから逃れる過程で進んでいくうちに、シグレは図らずも、青いバラの咲き誇る一帯へと赴いていた。壁と地面はしなやかな茨の蔓に覆われ、青い花を一面につけている。
　誰もいないことを確認し、シグレは布の塊の封を解いた。
　すれば、中から、ややぐったりした様子のハナネコが顔を覗かせた。まだ倉庫の中であったことに安堵したのか、前足を出し、青いバラの上に降り立った。

「最初は、単純にお前がこの第３倉庫を自分の居場所にしてしまっただけなのかと思っていた。
けれど、違っていたようだ」
　その言葉がわかったのか。ハナネコは重い体を引き摺るようにしてそのまま行ってしまおうとしたが、やはり立ち止まり、シグレを振り向いた。
「本当は、自由な倉庫の住人の喧騒を楽しんでたんだな。それで喜ばせようと、草花を？」
　神魂そのものに目や耳があって、そういった情緒があるのかはどうにも不明だが、ハナネコが誰かから逃げようとするときの意外そうな顔つきから、シグレにはそんなふうに思えてならなかった。どうして怒っているのかわからない様子だった。いつものお祭り騒ぎに花を添えようとしただけなのに。

「急に自分の居場所を植物だらけにされたんじゃ、誰でも戸惑ってしまうさ」
　それ故に、そんな倉庫の住人に、揃って追いかけられる羽目になったのは予想外だったのかもしれない。
　ハナネコが、そっと息を吐いたのが見えた。まるで、ここまできては仕方ない、と言わんばかりの、途方に暮れたような表情をしている。
　シグレはふと、周りの様子に変化を感じてあたりを見渡した。周りに咲き誇る、青いバラの全て。それらの姿が儚くも消えてゆくのだ。あたかも触れれば割れる幻であったかのように。輝きのない光と化して霧散するように消えていってしまう。
　そして、ハナネコも。

「パーフェクト。やはり君は、美しい」

　ハナネコのいた場所には、もう気まぐれで愛らしい顔つきの猫の姿はなかった。代わりにあるのは、ハナネコが首の周りに咲かせていた、青いバラが一輪だけ。

　異変が解けたのだ。最後のハナネコの表情を鑑みるに、逃げ惑うのに疲れたのか自ら解いてしまったかのようだった。単純に捕まって観念したからか、シグレが本心を汲んで手を差し伸べたからか。

　それはわからない。その場に残された一輪の青いバラを、シグレは持ち帰ることはせず、そこらの木にそっと立てかけておいた。

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あとがき

担当マスター： tsuyosi
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皆さんこんにちは、此度のシナリオ「幸運？の青いバラ」を執筆させて頂きましたtsuyosiと申します。いつもながら、皆様のキャラクター、その行動があって、この物語は完成することができたと、しみじみ感じ入っております。また、出会う機会があれば、その時も皆様の物語を形にする手伝いができればと考えております。本当にありがとうございました！

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