ふたりでパフェひとつきり｜リアクション

ふたりでパフェひとつきり

【にゃんことホラーは意外と合う】

　多感な高校生、社会に出るのを目前にした大学生などは、もっとも流行に近しく最先端を駆け抜ける時代のパイオニア。と言えましょう、たぶんそう。よくわかりませんけれど……のんびり気質の綾辻綾花はどちらかといえば、ハヤリのあれこれにはうといほうでして。だから彼女の話には、文頭に『噂によれば』が付きました。
「ふたりでいっしょにパフェを食べるのが、流行ってるみたいです」
　お顔は真剣そのもの。大学の講義終わり、クラスメートたちの間から聞こえてきたウワサでした。いわく、ふたりでひとつのパフェをカップルで食べるのが今、最高にエモい！
　早川珪さんは首をかしげて、
「パフェかあ、あまり食べたことがないかも。それじゃあ食べにいってみようか？　甘いものは嫌いじゃないしね」
「はいっ、いきましょう！　あ、お店はどこがいいですか？」
「綾花さんにまかせるよ。いいところを知っていそうだから」
　たしかに、心当たりはありました。何度もおとずれていて、いまや常連さんで、お気に入りのお店。にもかかわらず、そういえばまだ、珪さんをともなって来店したことはありませんでした。
「きっと珪さんも気に入ると思いますよ♪」
「それはたのしみだ」
　わくわくわく。楽しげな珪さんの足取りは軽くなり、綾花のにっこりも深まりました。

　そんなわけでやってきました。シネマカフェ『クランク・イン』！
　初来店の珪さんはもの珍しそうに、店内をきょろきょろ。綾花がおとずれるときはいつも灰白にゃんこといっしょでしたから、彼とは初来店です。
「あらあらあら？　綾辻さん……あらあらあらら～？」
「あっ、エマさん」
　ぱたぱたぱたと出迎えたアルバイト店員、嬉野エマにもそういえば、恋人となった彼を紹介したことはありませんでした。
「あや、あやや、あややつじさん。こちらの方はもしかしなくてももしかして……？」
「あ、はい。ええとその、まあ、あのですね。私の恋人で、珪さんと言いまして……」
　どういう情緒か、力強いガッツポーズをかますエマ。
「ぜひ！　いらっしゃいませ！　ぜひ個室のほうへ！　あっ、いつものにゃんこ部屋にしますか！？　にゃんこはいませんけど、やっぱりにゃんこ部屋がいいですわよね、綾辻さんですものね！」
「は、はい。それでお願いします……あっエマさん？　注文もいいですか？　その、パフェをいただきたくて……ふたりでひとつでいいんですけど」
「パフェ！！　ふたりでひとつ、はい、やってますわよ！　はい！！　にーさん、『コーヒーゼリーとジェラートのパフェ』をお願いしますわー、にーさん？　にーさーーーん！！」
　あいかわらずのドタバタに、綾花は思わず苦笑いを浮かべました。
　にゃんこ部屋は、綾花がテオをはじめ、顔見知りのにゃんこたちといっしょに映画を見る時、たびたび利用した特別なお部屋です。もともとは綾花の提案によって実現したもので、今ではすっかりお店の売りのひとつとして定着しておりました。
「へえ、かわいい部屋だね」
　覗きこむなり、珪さんも興味シンシン。壁のにゃんこ映画ポスターに、棚にはこれまたにゃんこ映画関連グッズがあれこれとならんでいます。ソファやクッションのカバーだってもちろん、にゃんこ柄！
「映画、なにを見ましょうか？　珪さん、リクエストはありますか」
「せっかくだから、猫が登場する映画がいいよね」
「あ、これなんてどうですか？」
　と言って綾花が取り上げたのは、恐怖の妖怪猫又が登場する、猫ホラー映画でした。愛らしいにゃんことホラー！　一見相反するふたつがどんなふうに結び付くやら、気になります。
　なんだかソワソワとしたエマがパフェを運んできてくれたら、上映開始です。
「珪さんはこの映画、見たことありますか？」
「いや、初めてだよ」
　夜ごとに数多の人々をその爪で葬り去ってきた、恐るべきあやかし。人畜無害で愛嬌たっぷりな猫のふりをして近づき、油断した獲物をざくり！　冷酷で残忍な狩人、けれどその正体と出生には、悲しい秘密が隠されていて……。
　という映画を楽しみながら、
「じゃ、じゃあ……パフェでもいただきましょうか」
「そうだね。ふたりでひとつ、だね」
　コーヒーゼリーとジェラートのパフェをぱく、ぱくり。冷たいガラスの器に涼しげなゼリーがたっぷり、ジェラートのなめらかな食感と相まって、夏にぴったりの一品です。
　美味しい！　けど、映画も気になる！　たびたびスプーンを運ぶ手は止まり、こわ～いシーンにはびくりと飛び上がって、おとなりの珪さんをむぎゅっ。
「け、けっこう怖いね……綾花さん、大丈夫かい」
「は、はい。珪さんがいますから……」
　もちろん、イチャイチャも忘れずに。ね！

「怖かったですね……でも」
「うん、猫が思いのほかかわいくって」
「あの仕草は反則級ですよね……！」
　エンドロールが流れ始めたところで、グラスの底に残っていたゼリーをひとすくい。スプーンを彼の口に寄せると、微笑みながらひと口、ぱくり。
　パフェ、ふたりでひとつきり。これはいいものですね、と綾花は堪能し、次もまたやろうと心に決めました。

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ふたりでパフェひとつきり

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