寝子島灯篭　～NEKOJIMA LANTERNS～｜リアクション

寝子島灯篭　～NEKOJIMA LANTERNS～

有沢茉奈は紺色地に大輪の花火が咲く華やかな浴衣を纏い、結い上げた髪に上品に髪飾りをつけていた。
何度も家を出る前にチェックしてきたので、身だしなみは大丈夫なはずだ。
今日は恋人の閑野カノンと同じく恋人同士の水上桜、滝沢匠とのダブルデートなのだ。最近、町で偶然二人を見かけたのだが、凄くいい感じだった。なんなら今も。
（羨ましくなる、くらい）
　とは言え、茉奈もカノンとの仲も負けていない。隣を歩く恋人をちらっと見上げる。
カノンも浴衣でビシッと決めている。紺色無地のシンプルな浴衣が体系にフィットしていてすらりとしていて。
（はあ～。あたしの彼氏、最強）
　何度も恋をし直している気がする。
「茉奈？　どうかしたか？」
「ううん。カノンの浴衣似合ってるなーって」
「ありがとう。茉奈も似合ってる」
　笑顔を向けられ、昇天するかと思った。
　桜はそんな茉奈の様子をみながら、ジト目になっていた。完全に二人の世界に入っている気がする。
ナチュラルな褒め合い、堂々と惚気ている。
（まったく）
　桜は左隣を見る。匠はすでに設置され始めた灯篭に視線を向けて、このイベントを楽しんでいるようだ。
（この浴衣の感想、聞きそびれちゃった）　
　合流の時にばたばたしていたので、少し惜しいことをした。このタイミングで聞くのも何か違う気がする。
桜の浴衣は水色地、水面に桜の花が浮かぶデザインで夜祭りの明かりに良く映える。
結い上げた髪を飾る蜻蛉玉の髪飾りは、桜自身が作ったものだ。
「水上、ほらあれ」
　不意に声をかけてきた匠が指をさしたのは一際大きな灯篭だった。炎が揺らめいている。少し風が吹いているのかもしれない。
「綺麗」
「ああ」
　お互い、肩を寄せた。
来年大学受験なので、こうして二人で過ごせる時間は次第に少なくなるだろう。もちろん、勉強は一緒にしたりするが。どうしても、変わって行くことはあるのだ。
「桜！」
　唐突に茉奈に腕を組まれる。
「ねえ、皆でかき氷食べない？」
「あそこに店が出てるんだ」
　カノンが指をさした先には確かにかき氷の旗が立っている。
「へえ。……良いんじゃないか」
　匠が肯定したので、最後に桜が頷いて皆でかき氷を食べることに。
　それぞれ、好きな味でかき氷を買うと、寝子ヶ浜海浜公園からエノコロ岬まで歩くことになった。
エノコロ岬は恋人たちの丘として名所になった猫恋の鐘があるところだ。
（岬にまで灯篭があるのかな）
桜はそんなこを考えながら、かき氷をしゃくしゃくをかき回す。
「……滝沢君？　そのかき氷って」
　色が二色だった。ブルーハワイとメロンだろうか。
「シロップを足そうと思ったら、間違えて」
　ぶっきらぼうに、それでいて照れくさそうに言う匠はかき氷を差し出してきた。
「味見するか？」
「え、ああ」
　自分のストロー付スプーンで一口すくって口へ。
「……ふふ。不思議な味。でも美味しいかも」
「だよな」
　灯篭の揺らめく光で幻想的なファンタジーのような風景、風が吹きぬけて、匠の浴衣の裾が揺れる。
「滝沢君、その浴衣似合ってるよ」
「ん？　あー……水上も、その……浴衣さ桜の色と白で光って見えるんだよな。すごく、似合ってる」
　どうやら、見ていてくれたらしい。
「うん。ありがとう」
　ずっと、一緒にいられたら良いな、と。

　そんな様子を見ながら、茉奈は微笑ましくなった。本当に良い感じだ。邪魔するのに罪悪感がでそうなくらい。
「カノン」
　カノンが反応してこちらへ視線をむけて来た。
　茉奈はそっと手を出した。彼はすぐに気づいたらしい。ぎゅっと手を握ってくれる。
恋人つなぎで歩くと、夏の暑さとはまた別な熱さが込み上げてくる。
（これって恋のバイブスってやつ？）　
それを感じて、どうしようもなく、身悶えるしかない。
「そうだ、写真撮らない？」
　茉奈が他三人に提案。
幻想的なこの道の真ん中で、四人で思い出を。