寝子島灯篭　～NEKOJIMA LANTERNS～｜リアクション

寝子島灯篭　～NEKOJIMA LANTERNS～

水槻清恋は歩きながら、腰の上の方の位置で結ばれた帯に手をやる。浴衣など久々に着たので、解けていないか、気になる。
　ふと見ると、街の一角のショーウィンドウに自分の姿が映っていた。
　浴衣は深みのある紺地に紫陽花が浮かび上がる、シックで大人っぽいデザイン。オフホワイトの帯が清潔感を出している。
　今日は、非番であり、清恋にとってのセフレ。セフレ以上の関係の森谷錠と会う日なのだ。
寝子島駅前で待ち合わせ。
錠は予定時刻より5分ほど早くやってきた。
「お待たせ。待った？」
　清恋は首を横にふる。大して待ってないと伝えると、錠はよかったと口にする。
「……」
　錠は清恋を見て、しばし沈黙。
「どうしたの？」
「いや」
　すると錠は、首元の浴衣の部分に触れた。
「ちょっとだけ、胸元がめくれてる」
　スマートな動作で浴衣のめくれを直してくれた。
「あ、ありがと」
「ああ、うん」
　横目でちらちらと見てくる。　「何？」
「綺麗だなって」
　気のせいかも知れないが、頬を染めて、少しだけ照れたように言う。
　ドキリとする。
（えっと……あたし達、ただのセフレだよね）
　甘酸っぱい恋をしている同士ではない。もっと合理的な関係のはずだ。
　清恋は内心動揺したものの、珍しく一ヶ月振りの逢瀬だから、と言い聞かせた。
　参道商店街から寝子島神社まで歩く。灯籠と揺らめく炎が綺麗だ。
　幻想的で、大袈裟かもしれないが別世界にいるような。
　と、風景に気を取られて、下駄が地面のちょっとしたくぼみにハマった。
「あっ」
　慣れない格好だったので、思いっきり体勢を崩してしまう。
「おっと」
　しかし、倒れそうになるところ、錠に肩を支えられた。
「！」
　それから、ぐいっと抱き寄せられる。
「大丈夫か」
　彼の焦った顔が目の前に。
「だ、大丈夫」
　近い。抱き寄せられるのも、近くで顔を突き合わせるのも、初めてなんかではないなのに、心臓の音が凄くうるさい。
（セフレなんだから。……何これ。恋人みたいな）
　雰囲気のせいだろうか。
　それから、寝子島に伝わる「落神伝説」を表現したライトアップや展示を見て回る。あまりよくわからないが……夏の風情は出ている気がする。
　ドキドキの余韻で少しだけ疲れてきた。
（まさか私）
　自覚したくない気持ちをそっと胸の奥にしまった。

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